九州大学(九大)は9月19日、スピンを使った次世代の電子素子での応用が期待される純スピン流を、熱を使って効率的に生成することに成功したと発表した。

同成果は、同大大学院 理学研究院の木村崇主幹教授らによるもの。詳細は、Nature Publishing Group(NPG)の「NPG Asia Materials」のオンライン版に掲載される。

電子が持つスピン(磁気)の性質を利用するスピンデバイスは、次世代の省エネルギーデバイスとして注目されている。もし、スピンのみの流れ(純スピン流)を使うことができれば、電荷の流れによるジュール熱が発生しないので、エネルギー利用効率の良いスピン情報伝達が可能で、スピンデバイスのさらなる高性能化に貢献すると期待されている。しかし、これまでの手法では、純スピン流を作るために電流を流す必要があり、ジュール損失などの問題があった。

研究グループは、強磁性金属であるCoFeAl合金を加熱することで、電流を流すことなく極めて効率的に純スピン流を生成できることを見出した。さらに、同手法をデバイスに組み込むことで、2桁以上大きなスピン信号の取り出しに成功した。同技術を応用することで、現在は捨てられている電子回路上の排熱を効率的に利用して動作する新たな省エネデバイスの開発などが期待されるという。また、マイクロ波照射による強磁性体の発熱現象を用いることで、無駄な電気配線を減らしワイヤレスで動作するスピンデバイスも可能となる。加えて、環境中から微小な熱エネルギーを取り出し電気エネルギーに変換して利用する新しいエナジーハーベスティング技術への応用などが期待できるとコメントしている。

(a)実験に用いた横型スピンバルブ素子の模式図と実際に使用された素子の電子顕微鏡写真。(b)CoFeAl合金を用いて、室温で得られた熱励起スピン信号