9月16-17日の米FOMC(連邦公開市場委員会)の結果を受けて、NY市場でドル円が108円を超えて上昇、続く東京市場では一時109円をうかがう展開となった。ここ数週間はドル円が上げ足を速めており、110円到達も近いのではないかという勢いだ。

そもそも8月中旬に、ドル円が4月以降のレンジを抜けて上昇し始めたのは、7月末に開催された前回のFOMCの議事録で、想像以上に早期の利上げが意識されていたことが明らかになったからだった。その後、日本やユーロ圏の景気軟調が報告され、また英国はスコットランドの住民投票で躓くなど、相手のエラーでドルが上昇した面もあった。ただ、基本的には、米国の金融政策が緩和縮小へ、日欧の金融政策が現状維持や緩和強化へという方向性の違いが、足もとのドル相場を支えてきた。

その意味で、今回のFOMCでは利上げに積極的な、「タカ派」色が一段と強まるとの期待があった。市場金利が全般に上昇し、ドルが全面高になったことを考えると、FOMCは「タカ派」色を強めたと市場が判断したことは間違いない。

第一に、FOMC参加者の2015年末の政策金利予想の中央値(17人の予想のど真ん中)が、3か月前に比べて小幅引き上げられた。第二に、通常の声明文とは別に、「政策正常化の原則と計画」という資料が公表され、利上げに至るプロセスの詳細が明示された。これは「いつ」ではなく「どのように」を示すものだが、FOMCが利上げへの道筋を明確にイメージしているとの印象を市場に与えたのかもしれない。「政策正常化」とは政策金利の引き上げを指す。第三に、次回10月のFOMCで国債や住宅ローン担保債券の購入、いわゆるQE(量的緩和)の終了予定が再確認された。

もっとも、声明文の「QE終了後も、かなりの期間、低金利を続けることが適切」との下りは残された。「かなりの期間」というフォワード・ガイダンス(金融政策の先行きに関して示唆を与えること)に違和感を持つFOMC参加者も多かったとみられるだけに、やや意外だった。声明文の冒頭で、「広範な労働指標に基づけば、労働資源の活用度は引き続き顕著に低い」との判断が維持されたことと合わせて考えれば、労働市場改善のために金融緩和の継続が必要だと考えているイエレンFRB(連邦準備制度理事会)議長やフィッシャー副議長らがFOMCをしっかりグリップしているのだろう。

市場で主に来年半ばごろと予想されている利上げ開始が早まる材料は、現時点で特にないように思われる。ただし、上記の「政策正常化の原則と計画」には、利上げの時期とペースは「経済情勢とその見通しによって正当化される時」と明記されている。足もとのドル円の上昇ペースはやや速すぎるようにもみえるが、それが事後的に正当化できるかどうかは今後の経済指標にかかっている。

(写真はFOMCが開催されるFRBのボードルーム)

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査室 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査室チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査室レポート」、「市場調査室エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。