茨城県北部の日立鉱山の鉱床生成年代は、これまで考えられていた石炭紀前期(約3億2320万年前~3億5890万年前)ではなく、カンブリア紀(4億8540万年前~5億4100万年前)にまでさかのぼり、日本列島最古の鉱床であることがわかった。海洋研究開発機構海底資源研究開発センターの野崎達生研究員と鈴木勝彦上席研究員、東京大学大学院工学系研究科の加藤泰浩教授が、日立鉱床を構成する硫化鉱物から、レニウム-オスミウム(Re-Os)法で年代を直接決定した結果で、日本列島形成史の新しい手がかりになりそうだ。9月1日付の米科学誌Economic Geologyに発表した。

図1. 茨城県の日立鉱山付近の地質図(提供:海洋研究開発機構)

鉱床の成因を探るのに最も重要な情報は生成年代で、従来は、鉱床形成の源となる岩石(母岩)に含まれる鉱物の放射年代などから間接的に決められてきた。しかし、分析機器の発達や前処理法の確立で、Re-Os同位体による新しい年代決定法が普及し始め、鉱床を形成する鉱石から年代を直接決定できるようになった。海洋研究開発機構はRe-Os同位体を高精度で分析できる国際的に数少ない研究機関である。この方法は、日立鉱山のような変成帯に分布する鉱床で、生成された当時の年代情報を得られる点でも優れている。

図2. 日立鉱山不動滝鉱床のRe-Os同位体比からわかった年代(提供:海洋研究開発機構)

研究グループは、岡山大学の加瀬克雄名誉教授が1971~73年に日立鉱山の坑道から採取した鉱石をRe-Os年代決定法で分析した。日立鉱山不動滝鉱床から5億3300万 ± 1300万年前の生成年代が得られた。この結果は、日立鉱床の生成時期が、これまで考えられていた石炭紀前期よりも約2億年古い古生代初めのカンブリア紀であることを示した。

最近の地層研究で、日立鉱山不動滝鉱床の直上には、石炭紀前期とカンブリア紀にまたがる約1億5000万年の空白期間を持つ不整合が存在すると報告されていたが、研究グループが示した年代はそれを強く裏付ける結果となった。鉱床母岩である火成岩の噴出年代も鉱石の沈殿とほぼ同時と考えられており、日立地域にカンブリア紀の地質が広く分布している可能性が増した。

また、今回わかった年代とカンブリア紀の大陸配置、日立地域に分布する火成岩の地球化学的特徴が背弧-島弧-海溝系の特徴を示すことから、日立鉱床は古中国大陸とパンサラッサ海(古太平洋)の沈み込み帯の間の島弧域(背弧域)で生成した海底熱水鉱床であるという成因も明らかになった。

これまでRe-Os法以外の手法によって最も古いとみられていた鉱山は、12世紀の奥州藤原氏の黄金文化を支えた南部北上帯の玉山金山(岩手県陸前高田市)で、4億4000万年前のシルル紀とされていた。今回の日立鉱山の年代はそれよりもさらに1億年近く古く、日本の鉱床生成史を書き換えるものにもなった。

日立市の中心部から北西8キロに位置する日立鉱山は1591年に開発され、明治時代に日立製作所の発祥の地となり、1981年に閉山するまでに約3000万トンの硫化物鉱石、44万トンの銅、5万トンの亜鉛を採掘した日本で3番目の規模の銅鉱山で、鉱床の成因も100年以上前から研究されてきた。

野崎達生研究員は「これだけ古くなると、岩石や鉱石の地質年代の情報が少ないので、日本列島がたどった地質構造史をひも解く貴重な年代情報になる。われわれが用いたRe-Os年代決定法は、高温高圧下で変成された鉱石試料に対して、その後の変成作用を受ける前のオリジナルな年代が決定できたことも重要だ。同じような手法で研究すれば、変成帯に分布する他の鉱床についても年代が求まり、今後の資源探査などに役立つだろう」と話している。