島津製作所と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は9月4日、島津製作所が乳房を挟まずに乳がん検査を可能とする乳房専用PET装置「Elmammo(エルマンモ)」を製品化し、8月19日付で薬事承認(製造販売承認)を取得したことを発表した。

同装置は、NEDOが2006年度から2009年度にかけて行った研究開発プロジェクト「分子イメージング機器研究開発プロジェクト/悪性腫瘍等治療支援分子イメージング機器開発プロジェクト/悪性腫瘍等治療支援分子イメージング機器の開発」の成果を元に開発されたもの。

従来、乳がん検診にはX線マンモグラフィが用いられているが、X線を用いた形状検査のため、乳房を薄く平らにするほど、より良い画像を得られるという特性から、乳房を挟み測定が行われており、患者からは痛みによる苦痛の改善に対するニーズが高かったという。

日本人女性の乳がん罹患数は年々増加しており、がんの割合としてもトップとなっている。ステージ別での10年生存率はステージ0ならびにIであれば9割程度と高く、この段階で発見、治療することが重要となってくる

一方、乳がん診断の手法として、全身用PET/CT装置を用いた検査方法もあったが、全身用装置は肩幅が通らないといけないため、検査装置の直径が600~900mm程度必要となり、乳房から距離があり、高い感度や解像度を得ることができなかった。同社ではこうした課題の解決に向け検討を行ったところ、PETは体内に入った放射性薬剤の放出されるガンマ線を検出するという特性から、乳房付近に設置し、乳房のみの測定を行う専用PETを開発することで、高感度化を実現。また、併せて1.44mm×1.44mmの独自の小型検出素子(シンチレータ)を開発、搭載することで高解像度化も実現したという。

治験時のデータ。左写真の右下が実際の乳房専用PET装置を用いて得た画像。黒い塊が乳がんの病巣。右の写真は治療を行う前後の乳がんの病巣の変化を比較したもの。こういった治療効果の確認を迅速に実施することも可能になるという

具体的には、全身用PET装置と比べて感度は約10倍向上したほか、解像度としては約2倍の空中分解能の向上を実現したとする。

X線マンモグラフィは乳房を挟む必要があるが、Elmammoでは、台の上にうつぶせになるだけで、痛みを感じずに検査を行うことができる

また、実際の検査フローだが、同装置はすでに全身用PET装置を用いた検診に併せて利用する場合は保険が適用されることから、最初にPETの薬剤を患者に投与し、その後、全身用PETで検査を行った後、乳房用のPET装置で検査を行うという形になるという。乳房の検査時間は片方5~7分程度で、両方でも15分程度で済むとのことで、全身用PETだけで終えた場合でも、薬剤の減衰を30分程度待つ必要があるため、実は乳房専用PETで検診を受けても受けなくてもほとんど拘束時間は変わらないという。

「Elmammo」を用いら保険診療の検査フローのイメージ

なお同社では、将来的には「Elmammo」単独利用による乳がん診断への活用を目指すとしているが、PETの場合、放射性薬剤を投与する必要があり、被ばくの問題があるため、「単独で使用するだけのメリットがあると評価してもらう必要がある」とし、当面は全身用PET装置での検診のオプション的に活用してもらう流れになるとの見方を示している。

気になる検診価格は、薬価としては4000点であり、個人負担としては1万2000円程度とのこと(別途、全身用PET検診費用が3万円程度発生)。また、装置の価格としては定価4億円(税別)で、初年度10~20台の販売を目指すとしている。

島津製作所が開発した乳房専用PET装置「Elmammo(エルマンモ)」の外観。右下に写っている4名は左から、島津製作所 医用機器事業部 技術部 副部長の井上芳浩氏、同 専務執行役員 医用機器事業本部長の鈴木悟氏、NEDOバイオテクノロジー・医療技術部長の山崎知巳氏、京都大学大学院医学研究科 放射線医学講座(画像診断学・核医学)講師の中本裕士氏