新たな指揮官によるサプライズ選考は、日本代表を再浮上させるカンフル剤となるか

代表監督が代われば、代表メンバーも変わる。予想はしていたが、それでもウルグアイ代表との初陣へ向けてハビエル・アギーレ新監督が選んだ新生日本代表は鮮烈なサプライズを与えた。そこには、55歳のメキシコ人指揮官からのメッセージが込められている。

サッカーファンを驚かせた5人の初選出組

ハビエル・アギーレ新監督に率いられる新生日本代表が、札幌市内で始動した。招集されたメンバーは23人。FW本田圭佑(ACミラン)をはじめとするワールドカップ・ブラジル大会代表12人が名前を連ねた一方で、5人を数えた初招集の中には誰もが驚かされた選手たちも含まれている。

例えばDF坂井達弥(サガン鳥栖)は、今シーズンはわずか5試合にしか出場していない。約4カ月ぶりにリーグ戦のピッチに立った8月23日の大宮アルディージャ戦を、リカルド・ロペスGKコーチが視察。25日のスタッフ会議で報告を受けたアギーレ監督が招集を決めたが、坂井がセンターバックでは数少ない左利きであることが重視されたという。

186cm、84kgの体躯(たいく)を誇るFW皆川佑介(サンフレッチェ広島)は中央大学卒のルーキーで、7月にJ1デビューを果たしたばかりだ。アギーレ監督が来日後に初めて視察した8月16日の浦和レッズ戦で、後半14分からの途中出場で見せたプレーの中に光るものがあったのだろう。

ボールを持たない88分間に何をするか

8月28日に行われた代表発表会見で、指揮官は「走らない選手は呼ばない」とアギーレジャパンに入るための最低限のハードルを明言した上で、興味深い持論を展開している。

「1試合90分間の中で、インプレーの時間は45分間から48分間くらい。ピッチには22人が立っていて、ボールはひとつだけ。平均すると1人がボールを持つのは2分間となり、残る88分間はボールを持っていない。その88分間の中で何をしているのかを私は見ている」。 問われるのはオフ・ザ・ボール時の動き。8月11日に行われた就任会見でも明言したように、守備意識の高さやチームメイトとの協調性はもちろんのこと、チームへの献身性や国を背負って戦うことへの誇りの有無を何よりも重視していく。

実際、アギーレ監督は「ゼロからのスタート」を何度も強調しながら、今後も独自の選手選考を継続していくことを明言している。

「若手かベテランか、過去に代表に招集されたか初招集か、ヨーロッパ組か国内組かといった区別はしない。全員が日本代表だ」。

選考を介してアギーレ監督が発したメッセージ

だからこそ、さまざまな意味で注目された今回の招集メンバーには、所信表明的な意図が色濃く反映されていると言っても決して過言ではない。個人名を挙げれば、J1で出色のプレーを見せながら選考に漏れたFW宇佐美貴史(ガンバ大阪)は、以前から走力や守備意識の希薄さを指摘されていた。

坂井や皆川、21歳のDF松原健(アルビレックス新潟)、昨シーズンから背番号10を託されている23歳のMF森岡亮太(ヴィッセル神戸)の初招集組の存在はサプライズであると同時に、すべての現役選手に刺激を与える。

間もなく29歳になるベテランDF水本裕貴(サンフレッチェ広島)の復帰もしかりだ。逆に本田やDF長友佑都(インテル)、FW岡崎慎司(マインツ)ら、岡田武史元監督時代から代表に名前を連ねてきた選手たちには、生き残っていくことへの危機感を与えるはずだ。

代表発表から2日後の8月30日に開催されたJ1では、皆川と森岡、初招集組では際立った結果を残している現役慶応ボーイのFW武藤嘉紀(FC東京)がそろってゴールをゲット。彼らを通して発信された、代表への門戸が開けられているという「メッセージ」がリーグ全体を活性化させた形だ。

ヨーロッパに目を移せば、本田が現地時間8月31日に行われたセリエAの開幕戦でゴール。新天地バーゼルに移籍した柿谷曜一朗も今シーズン2点目を決めた。9月1日の初練習を終えたアギーレ監督も、招集した選手たちの活躍に思わず目を細めた。

「代表に選ばれたことがモチベーションをあげ、そのような活躍につながったとしたら、非常に喜ばしいことだ」。

指揮官の脳裏に描かれているさらなるサプライズ

もっとも、アギーレ監督は10月以降で4試合が組まれている年内の国際親善試合へ向けて、メンバーをどんどんシャッフルしていく方針を掲げている。大勢のメディアが集まった初練習でも、常に携帯している小さなメモ帳に自分の目を通して得た情報を頻繁に書き込んでいた。関係者によれば、J2に対する知識も豊富に持ち合わせているという。

「守ることも攻めることもできる選手を求めている。ボールを奪うことは重要だが、的確にボールを拾って攻め上がっていくことも重要だ。私は守るということを、DFだけでなくFWにもMFにも求める。イレブン全員が守れて、攻められるバランスの取れたチームを目指したい」。

就任早々からドラスチックに日本代表の陣容を変えた外国人監督として、1994年のパウロ・ロベルト・ファルカン氏と2006年のイビチャ・オシム氏が思い起こされる。前者は成績不振のために半年足らずで解任され、後者は期待を抱かせながらも病魔に倒れて交代を余儀なくされた。

果たして、サプライズ選考でファンやサポーターをいい意味であ然とさせた55歳のメキシコ人指揮官はどのような軌跡を描き、4年後のロシア大会へ向けて日本代表を導いてくれるのか。9月5日に札幌ドームで行われるウルグアイ代表戦から、新生サムライブルーの新たな戦いが幕を開ける。

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筆者プロフィール : 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。