6月上旬、台湾では、毎年恒例のCOMPUTEX TAIPEIが開催されていた。いまやアジア最大のIT展示会と位置づけられる同イベントには、3万8000人にのぼる海外からの来場者を含み、会期中に13万人が訪れ、盛況のうちに幕を閉じた。

2014年6月に台湾で開催されたCOMPUTEX TAIPEI

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VAIOの関取高行社長と、赤羽良介副社長も、この会場を訪れ、積極的な商談に動いていた。

会期中の夜、食事も終わってBARを訪れ、適度なアルコールが入ったとき、関取社長は、なにか閃いたように、興奮した口調で赤羽副社長に問いかけた。

「本質という言葉は、どうだろうか」――。

関取社長と赤羽副社長の2人には、数カ月前から、頭を離れないテーマがあった。それは、VAIO株式会社が目指すPCの基本姿勢を示す言葉だった。安曇野本社で、何度も議論を繰り返し、その基本姿勢についてはお互いに理解できている。だが、それを示す言葉がない。それを探し続けていたのだ。

「単純」、「シンプル」――。いくつかの言葉が候補にはあがっていたが、どうもしっくりとくるものがなかった。

社内での仕事が終わると、2人は毎晩のように松本市内で一緒に食事をしながら、目の前で起こっているさまざまな課題の解決に向けた議論を、引き続き繰り返していた。そして、その場においては、基本姿勢を示す言葉についても、お互いの意見をぶつけあい続けていた。

こうした長い議論の末に行きついた言葉が「本質」という言葉だったのだ。

関取高行社長は「本質+α」をVAIO株式会社の基本姿勢においた

7月1日の記者会見で関取社長は、「本質+α」という言葉を、VAIO株式会社が目指すPCの基本姿勢に据えることを、力強く発表した。

「辞書によると、本質という言葉は、『ものごとの本来の性質や姿。それなしには、そのものが存在しえない性質や要素』という意味を持つ。つまり、VAIOは、PCとして認められる本当に必要な性能と機能を持った商品を作る。そこにVAIO株式会社の本質がある」。

スマートフォンやタブレットの台頭とともに、PCの存在感が薄れつつあるとの指摘が各方面から出ている。なかには、PCは、スマートフォンやタブレットに置き換わってしまうのではないか、との意見もある。

だが、VAIOでは、「PCは決して無くならない」と考えている。

「創造的な仕事を行う上では、PCが不可欠であることは多くの人に共通した認識。VAIOは、生産性、創造性のための道具として使う人に対して、最大のアウトプットを引き出すツールの提供を目指す」と赤羽副社長は語る。

PCの本質である生産性、創造性といった部分をしっかりと捉えたモノづくりが、VAIOが掲げる基本姿勢となるというわけだ。

もうひとつ、この言葉には「+α」という文字が加わっている。この言葉も、当初は別の候補があったというが、最終的には「+α」という言葉に落ち着いた。

では、「+α」とはなんなのか。関取社長は、次のように語る。

「本質だけではVAIOの個性が出てこない。そこを表現する言葉として、『+α』がある。VAIOのDNAを継承し、人の気持ちに突き刺さるような一点突破の発想、VAIOならではの審美眼に根ざしたモノづくり。これが+αとなる」。

だが、それは本質にこだわった「+α」でなくてはならないとも語る。

「例えば、『+α』の部分には、VAIOならではのデザインが含まれる。しかし、デザインはPCとしての本質の部分に含まれる要素としても捉えることができる。このように、本質に含まれる要素のなかで、『ここはかなり違う』、あるいは『ここは尖っている』と言われるようなものが、VAIOが目指す『+α』となる。本質を忘れた『+α』はあってはならない」。

つまり、際立つ本質こそが、VAIOが目指す「+α」ということになる。

そして、「我々だけが、『+α』だと思っているだけでは意味がない。外からも、きちっと『+α』として評価していただけるものでなくてはならない」と語る。会見では、「本質+α」の考え方を、組織、設計製造、商品、販路のすべてにおいて根づかせていくことを、ひとつひとつ丁寧に説明してみせた。

本質+αを、組織、設計製造、商品、販路のすべての領域から説明

組織では、「240人による思い切りのよい選択と集中」、設計製造では、「安曇野での設計製造一体となったものづくり」、商品では「お客様の心に満足を与える配慮や美しさを加えた商品づくり」、そして、販路では「お客様とダイレクトにつながる販路選択」という表現で、「本質+α」の意味を訴えた。

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いま発売しているVAIOは、ソニー時代からの継続製品である。

その点では、本当の意味で、「本質+α」の考え方を踏襲した製品は、2014年度内に発売が予定されている、VAIOとしてのオリジナルの第1号製品ということになるだろう。果たして、これがどんな形で投入されるのか。

そこに、VAIOがこだわる「本質+α」の具体的な姿が反映されることになるだろう。