円安で、日本の観光産業が恩恵を受けている。日本政府観光局(JNTO)が発表した2014年7月の訪日外国人数(推計値)は前年同月比26.6%増の126万9,700人と単月で過去最多となった。政府が成長戦略で観光立国を打ち出し努力している効果もあるが、それ以上に円安が進んで海外から見た日本旅行の価格が下がった効果が大きい。

国別では、中国が前年同月比101.0%増の28万1,200人と、単月では訪日旅行者数トップとなった。都内の百貨店や空港の免税店は、中国人観光客の買い物で賑わっている。中国経済について、先行きに不安を感じさせる報道が増えているが、日本を訪れる中国人観光客を見る限りその気配はない。いったい中国経済の現状はどうなっているのか。

2014年7月訪日外客数(JNTO推計値)(出典:日本政府観光局Webサイト)

実は、中国経済には2つの顔がある。「消費」は好調。ただし、「投資」が過剰で先行きに不安がある。

中国では、中間層の所得水準向上が顕著である。これは大衆消費が拡大する重要な条件である。中国は、ようやく消費主導で経済を成長させる条件が整い始めている。中国の名目GDPの約半分は広義の消費(政府消費を含む)であるが、ここは年率二桁の成長が続くと期待できる。中国からの訪日観光客が日本で買い物をするのは、中国の大衆消費拡大の一環である。

一方、中国経済には、先行きが不安な部分がある。それが「投資」である。中国の名目GDPの半分弱は広義の投資と推定される。ここが明らかに過剰である。中国は社会主義体制のまま資本主義に移行したため、計画経済と資本主義が共存した経済となっている。計画経済の延長線上にある地方政府や国営企業が過剰投資を行っている。

民間企業は、経済状況が悪化すれば投資をストップするが、地方政府や国営企業は、経済が悪化しても計画通り、投資を実行する面がある。鉄鋼生産が過剰でも製鉄所を作り、鉄鋼増産を続けることがある。不動産開発や資源開発でも、需給が悪化していても計画を中止しないことがある。

中国共産党は、地方政府による過剰投資問題を十分に認識している。今後の経済運営で「消費主導の成長経済に移行」する方針を掲げている。ただし、投資依存は簡単には止められない。投資を減らし過ぎると景気が悪化して社会不安が生じるからだ。現在は、小出しに公共投資を続けて景気の悪化を防いでいる。

こうした中国経済の二面性を反映して、中国でビジネスを行っている日本企業は、事業内容が消費関連か投資関連かで現況が異なる。日用品販売・外食サービスなどを手がける日本企業はおおむね好調であるが、建設機械・鉄鋼製品などを手がける日本企業は苦戦している。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。