マイホーム選びには立地や行政サービスも大事

「マイホームを購入するなら、低金利の今がチャンス!」といった話を最近よく聞くが、果たして本当にそうなのか? 目先の情報に振り回されず、住宅購入の勝ち組になるためにはどんな視点を持つべき? 不動産のプロである長嶋修さんにうかがってみた。

マイホームは今、本当に買いなのか?

「マイホームは今、本当に買いなのでしょうか?」という素朴な疑問を長嶋さんに聞いてみた。答えは、YES。「短期的に見れば、今が買い時なのは確かです。ただし、"住宅(不動産)は資産"という時代はとっくに終わっています」という手厳しい意見。

一言で住宅(不動産)と言っても、今は二極化が進んでいる。「価値の落ちない、あるいは落ちにくい住宅を選んだ人は、特に意識しなくても自然と自然形成でき、長い人生を通してそれなりに豊かな生活を過ごせるでしょう。しかし、そうでない住宅を選んだ人は、単にお金を垂れ流すだけの"負債住宅"を選んだことになります。両者の資産格差は数千万円にもなるのです」。

では、"価値の落ちない(落ちにくい)住宅"を選ぶためには、どんな点をチェックすべきなのだろうか?

視点1)住宅は立地が全て
「どんな立派な建物であっても、それがニーズのない立地にあるなら資産価値はありません。たとえ1億円の豪邸を建てても、誰も住まないような場所にあれば市場価値はゼロなんです。つまり、住宅選びの眼目は何よりも"立地選び"なのです」。

長嶋さんが立地選びのポイントとして教えてくれたキーワードは、「駅近、徒歩7分」。「鉄道の駅から物件が近いこと」が、住宅の資産価値を保つ必須条件となる。なぜなら、国は「エコ・コンパクトシティ」の概念を打ち出し、「集まって住む」を政策的に推し進めようとしているからだ。「今後、日本は駅周辺か鉄道沿線に集まって住むという方向で、自動車中心社会から鉄道中心社会へ転換していくでしょう」。

「駅」と言ってしまうのも、実は危険だ。「資産として価値をたもてるのは首都圏の都心や地方の大都市の中心地、あるいは、特別の状況を作ることができた立地だけです」と長嶋さんは言う。

具体的な地名を長嶋さんにうかがってみると、「品川駅周辺」(内閣府の国際戦略総合特区や東京都のアジアヘッドクオーター特区に指定されている)、「北千住」(東京芸術大学などの大学誘致に成功、交通の便が良い)、「国立」(意識の高い住民が多く、常に住宅の供給が足りていない)といった地域を、"を有望地域と挙げてくれた。

視点2)マンションは「管理を買う」
「駅近、徒歩7分」という条件だと、多くの場合、マンションが対象となるだろう。では、マンションを選ぶ際に気をつけることはどんなことだろう?

「私が常々言っているのは、"マンションは管理を買う"ということです。マンションを購入するということは、所有者は自動的にマンションの管理組合の一員となり、マンションという財産を共同で管理していかなければならないということです。

現在、マンションの管理組合が機能せず、大規模修繕ができずに、にっちもさっちもいかなくなっているマンションがたくさんあることは知っておいてほしい事実です。そうならないためにも、マンションを買う場合は"管理組合がどうなっているか、実際にどんな管理が行われているのか"を、必ずチェックしてください」(長嶋さん)。

視点3)中古住宅は物件の見極めが重要
新築よりは手頃な価格で手に入る中古物件が最近人気だ。中古の住宅については、今までは「25年たったら住宅の価値は一律0円になる」とされていた。だが今後は、「資産性の高い中古住宅」と「資産性が0に近い中古住宅」とで差が出てくる。この大きな流れの変化は、ぜひとも知っておきたい重要事項だ。

資産性の高い中古住宅とは、どんな住宅なのか? 住宅が価値を持つ条件として、長嶋さんは以下を挙げている(『これから3年不動産とどう付き合うか』長嶋修著/日本経済新聞出版社より抜粋)。

履歴
大前提として「各種書類が整備されていること」。とりわけ、設計図書(竣工図書)は必須。修繕やリフォームを行ったら図面や契約書類、ホームインスペクションを行ったらその報告書も必ず保管されている

点検とメンテナンス
適切に点検・メンテナンスを所有者が行っていることが大事。雨漏りや水漏れなどの問題が発生してから補修を行う対症療法より、未然に防止する方がコストが低くなるし、結果として建物の寿命は延びる

建物の形状
複雑な形状の建物は必然的に角や隅の部分が多くなるため、その分だけ雨漏りの可能性を増やす。望ましいのは「直方体」など極力シンプルな建物

素材
建物に使われている素材は、メンテナンス期間が長い素材や仕様であることが望ましい。キッチンなどの設備はなるべく汎用(はんよう)性の高いものが望ましい

省エネ性
2020年から日本では新築住宅について省エネ基準が義務づけられることになっている。世界のトレンドは"省エネ"で、この流れに日本も追随していくことになる

視点4)行政サービスをチェックする
長嶋さんはこんなことも教えてくれた。「自治体を選ぶという視点も大切です。ある自治体では財政が厳しく、行政サービスが縮小傾向である一方、ある自治体は税収が豊かで行政サービスが充実している。こうした格差が目に見えて起きてくるのが、これからの時代なんですよ」。

筆者の経験では、住む地域によって子どもの医療費の負担割合が違っていた。マイホームを買う世代は、子育て世代とも重なりやすい。育児サービスの内容を調べるだけでも、行政の力量や温度差が違うとことが体感できるはずだ。ほとんどの自治体がインターネット上で情報公開をしているので、一度チェックしてみるといいだろう。不動産の価格には、自治体の経営状態や行政サービスの質も含まれていると言える。

30代で家を購入したとして、人生は80年。およそ50年付き合うことになるであろう「わが家」。だからこそ、モデルルームのすてきさに惑わされず、高い視点を持って選びたい。

※本文と写真は関係ありません

プロフィール : 長嶋 修(ながしま おさむ)

不動産デベロッパーで支店長として不動産売買業務全般を経験後、1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「不動産の達人 さくら事務所」を設立、現会長。ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を目指し、2008年に日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長に就任。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。また、自身の個人事務所(長嶋修事務所)でTV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動等でも活躍中。『これから3年不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)他、著書多数。

筆者プロフィール : 楢戸 ひかる(ならと ひかる)

1969年生まれ 大手商社勤務を経てフリーライターへ。中学生と小学生の男児3人を育てる主婦でもある。生活に役立つ情報を「主婦er」にて更新中。