材料表面に別の物質を化学結合させて室温・短時間で修飾する画期的な方法を、京都大学大学院理学研究科の中西和樹准教授、金森主祥(かずよし)助教、奈良工業高等専門学校の嶋田豊司(とよし)教授らが開発した。ヒドロシラン類と少量の特殊な触媒を用いて、室温で5分以内に表面修飾する高速プロセスを実現したもので、繊維や樹脂の表面に、機能分子を迅速に化学結合させる新技術として産業界に大きな影響を与えそうだ。8月6日付の米化学会誌Journal of the American Chemical Societyオンライン版に発表した。

図. 蛍光を発する官能基をもつヒドロシラン誘導体によるガラス表面の修飾。上は、触媒なしの場合で、反応は起きなかった。下は少量の触媒下、室温、5分間で効率的に表面修飾ができたことを、右の紫外線照射による鮮やかな蛍光発光で確かめた。(提供:京都大学)

材料への表面修飾は従来、ケイ素原子を含むシランカップリング剤を用いて、有機溶媒中100度以上の高温で10時間以上反応させる必要があった。表面修飾は新しい機能を持つ材料の創製に欠かせないため、産業界では膨大な量のシランカップリング剤が使われている。より迅速、効率よく、しかも室温で表面修飾できる方法が半世紀にわたり待望されてきた。

研究グループは、Si-H結合を有するヒドロシラン類を溶媒に溶解して液体状態として、触媒を加えて反応させた。さまざまな触媒を探索し、金属を含まず、フッ素とホウ素を含む特殊な触媒が有効であることを見いだした。この触媒を使うと、基材の表面にある水酸基とヒドロシラン誘導体のSi-H基の間で水素を発生する反応が速やかに起こり、基材と修飾基の間に化学結合が形成された。

この反応は室温、5分以内に完了し、表面に修飾される物質量を従来の1.5~2倍に増大させることができた。合成した種々のヒドロシラン誘導体とシリカゲルを用いて、27種類の異なる官能基を表面修飾できることを実証した。表面水酸基を豊富にもつガラスやセラミックスだけでなく、耐熱性の低い繊維・樹脂類の表面にも適用することができるため、多様な産業のニーズに応える新技術として期待される。特許も出願した。

研究グループの中西和樹准教授は「種々の異種材料間の結合を形成する表面修飾は新しい機能を安定して付与するのに重要だ。われわれの新技術は室温で、迅速、簡単にできるのが特長で、紙や繊維にも広く応用できる。材料開発への波及効果は大きいだろう。低温処理が要求されるバイオテクノロジーや医薬品の合成などにも使える」と話している。