北海道大学(北大)は、軟骨に類似したmmオーダーの異方構造を有するゲルの創製に成功したと発表した。

同成果は、同大大学院 先端生命科学研究院の龔剣萍教授らによるもの。詳細は、「Nature Communications」に掲載された。

ハイドロゲルは、そのソフトでウェットな性質により生体との親和性が高く、生体材料としての応用が期待されている。中でも、研究グループが2003年に開発した高強度ダブルネットワークゲル(DNゲル)により、生体軟骨に匹敵する強度をもつゲルが得られ、ゲルの生体構造材料としての応用が現実味を帯びてきている。しかし、実際の生体組織は力学強度の他にもさまざまな機能を併せ持っている。例えば、生体軟骨はスムーズな関節の動きを保障する低摩擦性、大きな衝撃にも耐えられる靱性(タフネス)、軟骨自身と骨を強固に結ぶ高接着性を同時に発現している。これらの多彩な機能は、軟骨中のコラーゲン線維(剛直な高分子)が軟骨表面では横に、骨との界面では縦に配向する(並ぶ)という、mmオーダーの巨視的な異方構造によって発現していると考えられている。しかし従来、複雑な巨視的異方構造をゲルに導入する技術はなく、ゲルに多くの機能を持たせることは困難だった。

今回、研究グループは、浸透圧によってゲル内部の応力場を制御することで剛直高分子を巨視的に配向させる方法を開発した。同方法はとても簡便であり、ゲル合成時に照射する光のパターンを変えるだけで、ゲルに含まれる剛直な高分子の配向方向を、局所的に、自由自在にコントロールできる。これにより、一般的には無秩序な構造を有するハイドロゲル内部に、剛直な高分子をデザインした通りに配向させることが可能となり、軟骨中のコラーゲン線維を模倣した構造をゲル中に導入することに成功した。この結果は、生体組織の異方構造形成メカニズム解明のヒントになるのに加え、より高度な機能を有する生体材料の創製への応用が期待されるとコメントしている。

ゲル内部における軟骨類似構造の形成メカニズム