理化学研究所(理研)と東京大学、東北大学は8月18日、新物質のトポロジカル絶縁体[(Bi1-xSbx)2Te3]薄膜に磁性元素のクロム(Cr)を添加することで、無磁場でエネルギー損失なく電流が流れる異常量子ホール効果の量子化則を観測し、異常量子ホール効果と整数量子ホール効果が本質的に同じであることを実証したと発表した。

同成果は、理研 創発物性科学研究センター 強相関物性研究グループのチェケルスキー・ジョセフ客員研究員(マサチューセッツ工科大学 准教授)、吉見龍太郎研修生(東京大学大学院 工学系研究科 博士課程)、十倉好紀グループディレクター(東京大学大学院 工学系研究科 教授)、強相関界面研究グループの川﨑雅司グループディレクター(東京大学大学院 工学系研究科 教授)、東北大学 金属材料研究所の塚﨑敦教授(理研 客員研究員)らによるもの。詳細は、英国の科学雑誌「Nature Physics」のオンライン版に掲載された。

研究グループは、トポロジカル絶縁体に磁性元素のCrを添加させた磁性トポロジカル絶縁体[Cr0.22(Bi0.2Sb0.8)1.78Te3]薄膜を基板上に成膜し、さらに、試料内部の電子数を連続的に変化させるため、電界効果型トランジスタ構造を作製した。そして、試料内部の電子数を少しずつ変化させながらホール抵抗を測定したところ、ホール抵抗が量子化抵抗値(約25.8kΩ=h/e2)で一定となり、試料が異常量子ホール状態になっていることを確認した。さらに、制御電圧や温度依存性を詳細に調べることで、自発磁化が磁場の代わりとなり、外部磁場なく誘起される異常量子ホール効果の縦伝導度と横伝導度に関する量子化則が、外部磁場で誘起される整数量子ホール効果と同様の振る舞いを示すことから、両ホール効果が本質的に同じであることを見いだした。これにより、異常量子ホール効果についての理解が進み、無磁場でエッジ電流を利用した省電力素子の実現へ大きく前進したとコメントしている。

電界効果型トランジスタ構造と異常量子化状態を示す電圧依存性。(a)磁性トポロジカル絶縁体[Cr0.22(Bi0.2Sb0.8)1.78Te3]を用いた電界効果型トランジスタ構造、(b)電界効果型トランジスタの光学顕微鏡写真、(c)制御電圧によって試料内の電子数を連続的に変化させると、ホール抵抗が量子化抵抗(約25.8kΩ)で一定となり、変化しない量子化状態が観測された