ベルマールの強さを支えるフロント陣の活躍に迫る

湘南ベルマーレが依然としてJ2戦線の首位を独走している。2位の松本山雅に勝ち点17差。異次元の強さに呼応するようにフロントも勝利給予算増額に迅速に動き、一方では戦略的な補強を展開。フロント、首脳陣、選手と三位一体で理想の実現へ向けて加速していく。

シーズン途中に上方修正された勝利給予算

まさにうれしい悲鳴だ。J2戦線の首位を独走中の湘南ベルマーレが、勝ち点120獲得を想定して勝利給を本年度予算に計上していることは前回書いたとおりだ。

実際には開幕前の時点で勝ち点80を想定して予算を組んでいたが、チームはシーズン折り返し時点で20勝、つまり勝ち点60に到達する無類の強さを発揮。このままでは予算をオーバーするとして、急きょ上方修正に着手していたのだ。

今年4月にGMから取締役社長に就任した大倉智氏が、約3000万円を勝利給の予算に上乗せした経緯を明かす。

「新規のスポンサー獲得がかなり順調に進みました。地元のみならず、いろいろなところで皆さまに協賛していただいたおかげです。チームが勝っていることと、坂本を中心として地道に回っている成果が出ているとも思っています」

新規スポンサーの獲得で賄った予算の増額分

Jリーグを戦うためにはクラブライセンスが必要だが、2012年度から「3期連続の赤字を計上する」、あるいは「本年度末で債務超過に陥っている」クラブはライセンスが更新されない。つまりは退会とJ3以下のカテゴリーからの再出発を余儀なくされる。

ベルマーレは現時点で、3期連続の赤字にも債務超過にも「リーチ」がかかっていない。しかし、2013年度末の純資産が2000万円だったことで、Jリーグ側のヒアリングの対象となった。本年度に大幅な赤字を計上すれば債務超過状態に陥るおそれがあるための措置だが、大倉社長は心配無用を伝えたという。

「Jリーグに対しては財源の根拠をしっかりと示さないといけないので、『増額分はちゃんと回収できる算段があります』とヒアリングで伝えました」

「足で稼ぐ」をモットーとする35歳の営業本部長

新規スポンサー獲得に多大な貢献をし、大倉社長が絶大な信頼を寄せるのが、今年2月に営業本部長に就任した35歳の坂本紘司氏だ。ジュビロ磐田から移籍した2000年から13シーズンに渡ってチームをけん引。サポーターから「ミスター・ベルマーレ」として愛され、2012年オフの現役引退後にフロント入りした。

豊富な運動量でピッチを駆け回った現役時代と同様に、営業本部長としてのモットーを「足で稼ぐ」と宣言。ホームタウンの枠にとどまらず、精力的に企業を回っている。

大倉社長は45歳。現役時代は柏レイソルやジュビロ磐田などでプレーし、引退後はスペインのヨハン・クライフ大学でスポーツマネジメントを専攻。2005年からベルマーレの強化部長を務め、J2に低迷していたチームの強化に努めてきた。

今年からはベルマーレU-18のコーチを務めていた田村雄三氏がTDに就任した。2009年のJ1昇格の際に、坂本営業本部長とともに主力を担った田村氏もまだ31歳。選手の平均年齢が23歳台のベルマーレは、フロントも若く情熱的だ。

期限付き移籍の選手がすぐに活躍する理由

フロントの心意気に、現場も呼応する。7月27日のカターレ富山戦では、清水エスパルスから期限付き移籍で加入したばかりのFW樋口寛規が、途中出場からわずか5分後の後半41分にあいさつがわりとなる初ゴールを決めた。兵庫・滝川第二高校の3年時に出場した全国高校選手権で8ゴールをあげて得点王を獲得し、母校の初優勝に貢献した樋口。だが、4年目の今シーズンはベンチ入りすらもゼロの日々が続いた。

「まさか(オファーが)来るとは思わなかった。公式戦の舞台に飢えていたし、だからこそやってやろうと思った。好調なチームに僕が入ってさらに勢いをもたらせればと」

他チームで埋もれている人材を発掘する強化部の慧眼(けいがん)は、期限付き移籍で加入した選手が大活躍している事実が如実に物語る。開幕前にFC東京から加入し、守備陣を束ねる25歳の丸山祐市は、過去2シーズンでリーグ戦に3試合しか出場していない。

相手の対策を上回る強さを身につけるために

3-4-3システムの右MFでいぶし銀の存在感を放つ27歳の藤田征也は、開幕直後に主力の古林将太が大けがで戦線を離脱した直後にアルビレックス新潟から急きょ加入した。4ゴールをあげていたFW大槻周平が長期離脱を強いられたことで、今回は樋口に白羽の矢が立てられた。大倉社長が言う。

「足りないところは素早く動く。それだけは身上なので。加入した選手がはまるかどうかは別として、動くというプロセスで言えば普通だと思います」

7月30日に敵地で行われたアビスパ福岡戦は0対0に終わり、今シーズン初の引き分けを記録した。自陣深くに引いて守備を固めるなど、前半戦で負けた相手は連敗だけは避けたいと、なりふり構わずベルマーレ対策を講じてくる。それでも、曺貴裁(チョウ・キジェ)監督は理想を高く掲げる。

「対策を練られてもいいくらいの強さを、身につけていかなきゃいけない」

ベースとなる豊富な運動量に悪影響を及ぼす真夏の暑さと相手チームの包囲網は、今後より一層厳しくなる。それでも、ピッチ外の迅速な動きと戦略的な補強でピンチの芽をつむ大倉社長以下の「フロント力」の強力な後押しを得ながら、ベルマーレは再び加速していく。

写真と本文は関係ありません

筆者プロフィール : 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。