国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は8月1日、統合失調症のさまざまな症状が、記憶や感情を担う脳内ネットワークを構成するシナプスの急激な減少によって生じることを確認したと発表した。

同成果は、NCNP神経研究所 微細構造研究部部長の一戸紀孝氏、同 佐々木哲也研究員らによるもの。詳細は、米国科学誌「Brain Structure and Function」オンライン版に掲載された。

霊長類特有の脳の発達過程として、出産直後に脳の神経細胞同士を結合するシナプスを急激に増大させ、少年期に不要なシナプスの刈り込みを行って効率化を図っていくことが知られているが、統合失調症などの精神疾患では、脳の領域同士をつなぐネットワークに異常があることが示唆されており、中でも統合失調症では、海馬との結合が強く、記憶との関係が深い辺縁系皮質において脳の結合障害が大きいことが知られている。

今回の研究では、コモンマーモセットを用いて、統合失調症患者で特にシナプスが減少していることが明らかな大脳深奥部皮質(記憶と感情に関わる領野)の発達過程の調査を行ったという。

その結果、記憶や感情に関わる領野と俊敏な判断に関わる領野の神経細胞はともに乳幼児期にシナプスの増大が確認されたほか、少年期で減少することを確認したが、思春期から成人期に至る間に、俊敏な判断を要求される領野では少年期同様にシナプスの減少が確認されたが、記憶関連領野では、一定量に維持されていることが確認されたという。

研究グループでは、俊敏な判断を要求される領野でシナプス減少が続くのは、経験により次第に直観的に判断できるように不要なシナプスが刈込まれるためと考えられる一方、生涯にわたりシナプスが増え続ける海馬と強いつながりのある記憶関連領野では、経験によって新しいシナプスが生まれ、古いシナプスは排除されるような現象が常に起きているために、シナプスの数が一定数に保たれると考えられるとコメント。これらのことから、統合失調症で見られる思春期以降の記憶関連領野のシナプスの減少が記憶関連領野へのダメージを大きくしていると考えられると結論付けたという。

なお今回の研究は、霊長類を使って記憶や感情を担う脳神経細胞の発達過程を調べた世界で初めての定量的研究とのことで、今後、このシナプス維持に関わる遺伝子を解明することで、統合失調症治療への道が開けることが期待されるとコメントしている。

発達段階ごとの各領野におけるスパイン(樹状突起に生み出される情報を受け取るアンテナで、1つのシナプスに1つのスパインが結びつく)数の変化