ガンマ線撮像用コンプトンカメラの大幅な性能向上に、早稲田大学理工学術院の片岡淳(じゅん)教授らと浜松ホトニクス(浜松市)が成功した。測定の精度や感度が改善し、環境中に放射性物質が集積したホットスポットをよりくっきり撮影できる。「目に見えないガンマ線を迅速かつ正確に可視化する」技術は物理・医療・環境計測などの分野で切望されており、放射性物質の除染対策だけでなく、幅広い応用が期待される。7月23日発表した。

写真1. 今回開発した新カメラ(左)と現カメラ(右)(提供:早稲田大学)

今回開発されたカメラは、現在の携帯型・高感度ガンマ線カメラに、早稲田大学の片岡教授らが新たに開発した「ガンマ線の3次元高精度位置測定」技術を盛り込み、サイズ・重量をほぼ同じに保ったまま、解像度を約2倍、感度を約70% 改善した。科学技術術振興機構(JST)先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環として開発した。

図. 現カメラで採用した2次元方式のシンチレータ(上)と新カメラの3次元方式の原理。新カメラでは、ガンマ線の散乱、吸収の位置が3次元的に高精度で識別できる。(提供:早稲田大学)

写真2. 同一条件で現カメラ(左)と新カメラ(右)で取得したガンマ線画像。10度離して置いた2つの線源が新カメラでは明確に区別できる。(提供:早稲田大学)

写真3. 新カメラで3分間撮影した福島県浪江町の放射線核種のスポット状集積の例(提供:早稲田大学)

浜松ホトニクスと片岡教授らは2013年9月に、重さ1.9kgと従来品の4分の1まで軽量化し、低価格化(税抜き1000万円)と高感度化を同時に実現したガンマ線カメラを開発した。今年4月に発売されて、使われ始めている。ただ、カメラのピントに相当する解像度には課題が残った。この現カメラの解像度は14度で、 5m先に、1m離れて局在するホットスポットの分離は難しかった。今回、解像度を 8度にまで改善した。形状や重量は現カメラとほぼ同じで、5m先にあるホットスポットは70cmまで分離可能となった。

今回開発した新カメラは、片岡教授らが新たに開発した「3次元シンチレータ方式」を採用し、ガンマ線の散乱・吸収位置を 3次元的に高精度で計測するのが特長。この方式で、性能が飛躍し、現カメラの半分程度の計測時間で、放射線核種の複雑な集積状況がはっきりと分離できるようになった。特許は内外で出願した。

福島第一原発に近い福島県浪江町で放射性物質の動態を定期的に調査している早稲田大学創造理工学部の大河内博教授らの協力を得て、浪江町の里山付近で新カメラのフィールドテストを行った。3分間、林道沿いを撮影すると、砂利の林道と森林の境付近に放射性物質がスポット状に集積していることがより鮮明に捉えられた。森林の中から樹冠などを撮影したところ、立ち木の上部から出る弱いガンマ線もわかった。

新カメラはエネルギー分解能も向上し、原発事故による環境汚染で問題となるセシウム137、134から出るガンマ線を以前より明確に識別できた。浜松ホトニクスは、物理学の研究や医療、環境計測など幅広い分野への応用を念頭に、改良を重ねて「数年後に商品化したい」としている。片岡教授は「福島の原発事故から、世界中のメーカーがガンマ線カメラを開発しているが、これだけ軽くて、感度が高いガンマ線カメラはない。性能的には断トツで世界一だ。今回、技術的な実証はできた。さらに軽量化したい」と話している。