7月10日夜、トークセッション「東京2020ーー僕たちがつくりあげるもう一つのビッグプロジェクト」が渋谷ヒカリエで行われた。東急電鉄・渋谷ヒカリエと文化批評誌『PLANETS』(主宰・宇野常寛)のコラボレーション企画「Hikarie+PLANETS 渋谷セカンドステージ」の第二弾だ。これからの東京とオリンピックについて、様々な話題が飛び出した同イベントの模様をお伝えしたい。

写真左から宇野常寛氏、乙武洋匡氏、堀潤氏、家入一真氏、猪子寿之氏

「もうひとつのビッグプロジェクト」を構想

今回の出演者は作家の乙武洋匡氏、チームラボ代表の猪子寿之氏、起業家で活動家の家入一真氏、評論家で『PLANETS』編集長の宇野常寛氏。司会はジャーナリストでNPO法人8bitNews代表の堀潤氏だ。2020年に東京はどうなっているのか、開会式はどうなるのか、外国人ゲストには何を知ってもらえばいいのかといった切り口から、「もう一つのビッグプロジェクト」について語るという内容だった。

「自分のことに思えなかった」

まずは宇野氏が今回のテーマにオリンピックを選んだ理由を説明。「僕、東京オリンピックが決まったとき、全くわくわくしなかったんですよ」と語る同氏は、オリンピックが決まったときの状況に「何でこんなに気持ちが冷え込むんだろう?」という疑問を持ったことがきっかけで、オリンピックについて考えてきたという。

宇野氏「自分のことに思えなかったんですよね。オリンピックが決まったときに。スポーツ観戦はわりと好きなので、美しいシュートがあるとかは分かるんだけど、同じ日本人だから応援しようとか感動をありがとうという気持ちにどうしても乗っかれない。乗っかれないということから始めていこうというのが今回のプランなんですよね。若い世代でもう一つオリンピックのプロジェクトを出したいなと思ったんですよ。ちゃんと未来につながるような、21世紀の日本はこういうオリンピックにしたいというようなポジティブな議論ができるようなオリンピックというのをしたいなという気持ちで、年が近いところにいる具体的なアイデアを持っていそうな人たちに声をかけたわけです」

参加体感型の開会式とは

続いて、猪子氏がオリンピックの開会式についての構想をプレゼンテーションし、「オリンピックって、時代のメディアやテクノロジーによって劇的に楽しみ方を変えたものが記憶に残っているような気がして。世界の中で日本って面白いのかもしれないと思ってもらうためには、記憶に残るオリンピックになる必要がある」と説明した。

猪子氏「今は20世紀のマスメディアとは違ったソーシャルメディアなどが出てきて、デジタルテクノロジーが空間そのものをメディアに変えつつある。プロジェクションマッピングとかは、空間そのものがメディアになってきていて、メディアが体感型に変わってきている。世界はすごい勢いでマスメディアからソーシャルメディアへ移行していて、テレビの枠で見るものから空間そのものがメディアみたいな方に移行している気がしていて、そうなったときに、鑑賞するだけのものから参加するメディアに変わり、身体で体感できるメディアに変わっていると思っている」

その上で、参加体感型の開会式を提案。具体的には、競技場だけではなく、東京の街全体をオープニング会場にするプランなどを提案。猪子氏による提案をもとに、壇上では様々な意見が交わされた。

宇野氏は64年のオリンピックに合わせてインフラが整備されたことに触れ、「2020年のオリンピックも、この先半世紀の日本社会の青写真を示すオリンピックに結果的になるのではないか」と締めくくった。

マラソンは同時開催できる!?

後半では乙武氏がパラリンピックについてプレゼンテーション。

乙武氏「実はパラリンピックの方が日本という国がどういう国でどんなところを目指しているのかというメッセージを伝えやすいと思っているんです。僕は昔から『パラリンピックがなくなればいいなー』と思っています。こう言うと、『障害のあるアスリートが活躍できる場を奪う気か』と言われがちなんですけど、決してそういう意味ではなくて、ゆくゆくは、オリンピックとパラリンピックを統合して一つの大会にできたらいいと思っているんです」

「健常者と障害者が同じようにスポーツをやったら勝ち目はないのでは?」とも思われることについては、柔道の例を出して説明。体重別で階級があるのは、人それぞれに体格の違いがあるからであり、そもそも男女を分けて競技をしているのだから、100m走も「健常の部」「視覚障害の部」「車椅子の部」「義足の部」と階級で分ける形で一つの大会に統合することは論理的に可能だと説明。

しかし、現実的な問題があることを背景に、2020年の東京で1つか2つの競技で一緒にできるようにするプランとして、マラソンの同時開催を提案した。東京マラソンが健常者のマラソンと車椅子マラソンが同じ日に開催されているため、実現が可能ではないかということだ。

東京のダイバーシティとは

議論は東京とダイバーシティの話へ。このパラリンピック論を受けた家入氏は、パラリンピックとオリンピックを一緒にするという発想と同時に、日本や東京という土地をそれができる風土にしていく必要があると指摘。

家入氏「あまり言いたい言葉ではないが、"弱者"が生きづらい世の中があって、それを解決していかなきゃいけない。そういった人たちが生きやすい東京になったらいいし。観光客にも、日本や東京が多様な人たちを受け入れることを知ってもらえたら良い意味で『日本やばいぜ』って言われると思う」

宇野氏はこの話を受けて、「乙武さんが冒頭から述べているメッセージって、これから21世紀の人類社会はどこまでを人間と見なしますよというのを最大限広く取ろうとする話だと思う。20世紀までの人間の社会って、究極的には五体満足かつ知的にも訓練を受けていた成人男性しか保護していなかったとあちこちでいわれていますよね。それが一番出ているのってオリンピックだと思うんですよ。パラリンピックをユニークに取り込むことで、生を受けた人間は人間の権利を全力で守るという宣言になると思う」と発言した。

会場からの質問も受けつつ進められた同イベント。「オリンピックが何となく遠い」「何となく興味を持てない」という人にとって、角度を変えてオリンピックを見られるイベントとなった。なお、同トークセッション第3弾「ものづくり2.0ーーハードウェアの思想が社会を変える」の詳細はWebサイトで確認できる。