生理学研究所(NIPS)は7月10日、自分の動作が真似されたことに気づくのが苦手と言われている自閉症スペクトラム障害(Autism spectrum disorder:ASD)者の、脳活動を測定した結果、他者の真似に気づくことに関わる脳部位の活動が、健常者に対して減少していることを確認したと発表した。

同成果は、自然科学研究機構 生理学研究所 心理生理学研究部門の定藤規弘 教授、福井大学 子どものこころの発達研究センターの小坂浩隆 特命准教授らによるもの。詳細は、「Neuroscience Research」に掲載された。

発達障害の1つである自閉症スペクトラム障害は、視線が合わない、独り遊びが多い、友人関係が作れない、他者の表情や気持ちが理解できない、他者への共感が乏しい、言葉の発達に遅れがある、会話が続かない、冗談や嫌味が通じないといった「社会的コミュニケーションおよび社会的相互作用の障害」と、興味範囲が狭い、特殊な才能をもつことがある、意味のない習慣に執着、環境変化に順応できない、常同的で反復的な言語の使用、常同的で反復的な奇異な運動、感覚刺激への過敏または鈍麻、限定された感覚への探究心といった「限定した興味と反復行動ならびに感覚異常」の2つの特徴で定義され、総じて対人コミュニケーションを苦手としている。

症状の改善方法としては、他者の真似をし、真似されたことを理解する訓練が知られており、これまでの研究から、「他者の真似をする」ときの脳の働きがASD者と健常者(定型発達者)でどのように異なるのかについての報告がなされてきたが、「自分の真似をされている」ときの脳の働きが自閉症スペクトラム障害でどのように変容しているのかについては良く分かっていなかった。

そこで研究グループは今回、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、他者から真似をされたときの脳の働きをASD群と健常群で比較を行ったという。

その結果、自分の動作を他者に見せた後、他者が真似した動作をするときと、しないときでは、健常者では視覚野の中で、観察した身体の部位に対して強く反応する領域「Extrastriate Body Area(EBA)」の活動が、真似をした時の方が高くなったものの、ASD群のEBAでは、そうした活動を観察することができなかったという。

研究グループでは、この結果について、ASD群のEBAが真似をされたときにうまく働いていないことを示すものであり、ASDの病態解明に重要な知見を与えるほか、障害軽減に向けた行動的介入の効果を判定するのに活用できる可能性があるとしている。

左図は、真似をされていないときに比べて真似をされたときに強く活動した領域を示している。健常群ではEBA(黄色枠)の一部が活動したが(脳断面の青色の部分)、ASD群では活動が低下していることが確認された(脳断面の緑色の部分)。右の図は、その領域の活動量を棒グラフで表したもので、青色の健常群と赤色のASD群で、EBA領域の活動量に差があることが見て取れる