国立天文台と東京大学(東大)の研究チームは7月1日、中性子を素早く捕獲する過程で合成された元素である「R過程元素」(金やプラチナ、レアアースなど)が、中性子星の合体の際に作りだされた可能性が高いことを明らかにしたと発表した。

同成果は、国立天文台JASMINE検討室の辻本拓司氏、東大大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センターの茂山俊和氏らによるもの。詳細は欧州の天文学専門誌「Astronomy and Astrophysics」に掲載された。

宇宙に普遍的に存在する元素の中で鉄よりも重い元素は、種となる軽い元素に中性子が捕獲されることで合成されるが、その中でも中性子の密度が極端に高い状況で多く作られる元素はR過程元素と呼ばれている。しかし、それらが実際に宇宙のどこで作られたのかについては、良く分かっておらず、これまで2つの仮説が有力視されてきた。

1つ目の説は太陽のおよそ10倍以上の質量を持つ重い星の中心核が最後に収縮して中性子星になるときに起こす大爆発である超新星だが。近年の研究から、超新星では中性子星から放出される物質でさえ、R過程元素を作り出すのに十分な中性子が存在する環境は実現できないことが分かってきた。

もう1つの説は、中性子星同士が合体する際に作り出されるというもの。連星中性子星は重力波を放射しながら少なくとも1千万年という時間をかけて近づき最後に合体すると言われており、数値シミュレーションの結果から、その合体の際にR過程元素が大量に作り出されるとされている。この説では例えば、金は地球約70個分に相当するような凄まじい量が一度の合体で作られると考えられているが、中性子星合体ではR過程元素以外の元素はほとんど作り出されないため、その影響を受けたガスから形成された星はR過程元素のみを極端に過剰に含んだ星になると予想される一方で、銀河系の星の元素組成を観測してもそのような組成を持った星が見つかっていないことが問題となっていた。

しかし、2013年に検出されたショート・ガンマ線バーストGRB 130603Bは、中性子星同士の合体が原因とされ、赤外線の観測結果からR過程元素が放出されたと考えられており、研究グループでは、このR過程元素が合成された兆候と、R過程元素のみを過剰に含んだ星が見つからない、という2つの問題の解決に向けたヒントが、銀河系の近傍にある矮小銀河の星にあると考え観測を行ったという。

実際に、R過程元素の1つであるユーロピウムの元素量の変化を各矮小銀河で比べたところ、矮小銀河の中でも質量の小さい銀河では、鉄の元素量は増加しているにもかかわらず、ユーロピウムの増加は見られないことが判明したという。これは、今回調査を行った矮小銀河では過去に一度もR過程元素を作る現象が起こらなかったことを意味するとのことで、これにより超新星ではユーロピウムが作られないことが示され、R過程元素の超新星説が否定されたとする。

また、比較的質量の大きい矮小銀河では、顕著なユーロピウムの時間に対する増加傾向が見えたとのことで、このような矮小銀河の質量によるユーロピウムの増加傾向の2分化を説明できるR過程元素合成現象の頻度として、超新星のおよそ1000分の1という数値を導出することにも成功したとする。この結果はこれまで算出されていた中性子星合体頻度に合致するもので、これらの結果から、研究グループでは、R過程元素の起源が中性子星の合体であることが強く示唆されたとしている。

さらに、中性子星合体によるR過程元素のみを極端に過剰に含んだ星になるとの予想については、中性子星合体に伴って放出されるR過程元素が宇宙空間にどのように広がるかの伝搬過程の考え方が間違っていたことも突き止めたという。

超新星から出てくる鉄などの元素は100光年ほどガスの中を直線的に伝搬し、その範囲内にあるガスと混ざり合うと考えられており、中性子星合体に伴うR過程元素もこれと同じような伝搬と混ざり合いをすると考えられてきた。しかし、実際には中性子星合体の際に飛び出すR過程元素は光速の10%から30%のスピードであるため、なかなか止まることができず、その結果、広範囲なガスの中を擾乱磁場に沿って、超新星からの鉄の場合のおよそ1000倍の距離をジグザク運動しながら伝搬していくことが分かり、この結果、R過程元素の濃度は薄くなり、過剰に含んだガスができないことが判明したとする。

実際に、このような伝搬過程をモデルに入れ、銀河系におけるR過程元素の進化計算を実行してみたところ、その結果が観測データと合致することを確認したとする。 研究グループでは、今回の成果に基づくと、中性子星合体現象は銀河系で100万年に10回から20回程の頻度で起きると見積もられ、現在建設が進められている大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」が目標感度に達すれば、2020年代には1カ月から2カ月に1個の割合で中性子星合体からの重力波を検出できる可能性があるとするが、現時点では観測データが不完全であることから、矮小銀河を構成する1つ1つの星の極微量なR過程元素の量を正確に測るという観測をすばる望遠鏡で遂行しているとしている。

中性子星合体、それに続く合成されたR過程元素の宇宙空間における拡散過程のイメージ図。中性子星合体過程では重力波が放出される。合体後にはブラックホールが形成され、高速で飛び出す金やプラチナは擾乱磁場に沿いながらランダムに走り回り、やがて運動エネルギーを失い、ガスと混ざり合う。R過程元素合成の証として強い電磁波も放出される (C)国立天文台