錯覚は身近にあふれている。青く見える人間の静脈は実は灰色で、錯視によって青色に見えていることを、立命館大学文学部の北岡明佳(きたおか あきよし)教授(知覚心理学)が発見した。北岡教授は「理科の教科書や医学書でも静脈は青色で示されており、小さい頃から当たり前だと思っていたことなので、驚いた。『青筋をたてて怒る』は、物理的に言えば『灰筋を立てて怒る』になる」と指摘している。

写真1. 円内は人の静脈の色を取り出して3原色RGBの値を示した画像(提供:立命館大学)

人間の視覚には、同じ色が周囲の色との対比によって、異なる色に錯覚して見える現象がある。錯視研究の第一人者である北岡教授は、灰色と肌色が混在した絵を見ていて、灰色が青色に見えることに気づいた。「人間の静脈も同じ原理で青色に見えているのでは」と仮説を立て、検証した。

写真2. 静脈錯視を応用して静脈を黒く強調した静脈可視化ツール(下)(提供:立命館大学)

腕や脚を写真で撮影して、画像処理ソフトで色の3原色のR(赤)G(緑)B(青)の数値を解析したところ、静脈の部分は黄色がかった灰色の値になった。黄色がかっているのは、静脈の上にある組織が影響するためという。人間の静脈は、周囲の鮮やかな肌の色と、静脈の灰色の対比により、目の錯覚や脳での信号の処理が複合的に生じて、青色と認識してしまうことがわかった。

周りの肌色との対比で、静脈が灰色から青色に誘導されているともいえる。今回の発見を応用すれば、画像処理で灰色の静脈だけをくっきり浮かび上がらせることができる。医療現場で静脈注射の際の補助や練習用教材などへの活用も考えられるという。

北岡教授は「自分の手の静脈をじっと見るだけで、身近な錯視の現象を実感することができる点に意義がある。物理的な刺激が決まれば、感覚も決まるというのは間違いだ。人は必要な情報を得ようとしているので、物理的な刺激の通りに見ているわけではない。そこでは、人間の心理が重要な役割をしていることを知ってほしい」と話している。