ザックジャパンがブラジルの地で無残にも散った原因とは

強豪コロンビアとのグループリーグ最終戦で、日本は一敗地にまみれた。ひとつの白星もあげられないまま幕を閉じた「2014 FIFAワールドカップ ブラジル大会」。選手たちが口をそろえて「自分たちのサッカー」を貫こうと臨んだ舞台で、世界と戦う上で欠かせない要素が図らずも浮き彫りとなった。

ワールドカップ記録更新の引き立て役となった屈辱

第2戦からメンバー8人を入れ替え、サブが中心となったコロンビアに大量4失点を喫しての惨敗。後半40分からは43歳のベテランGK、ファリド・モンドラゴンが途中出場し、日本はワールドカップ史上における最年長出場記録が更新された一戦の引き立て役となる屈辱をも味わわされてしまった。

勝たなければ決勝トーナメントへの扉が閉ざされるグループリーグ最終戦。日本はキックオフからアグレッシブに攻め続け、前半17分にPKで先制されてもファイティングポーズをとることを止めず、前半アディショナルタイムにはFW岡崎慎司(マインツ)のゴールで追いついた。だが反撃もここまで。後半にエースのハメス・ロドリゲスが加わったコロンビアに3点を奪われ、1-4で力尽きた。

コロンビア戦の敗因は残念ながら地力の差に帰結されるが、グループCの最下位で姿を消した原因は、2戦目までで勝ち点を「1」しか挙げられなかった点に集約される。コートジボワールに逆転負けを喫し、退場者を出して10人となったギリシャとスコアレスドローに終わったのはなぜなのか。コロンビア戦で見せた攻撃的な姿勢が、影を潜めていたのはなぜなのか。

ザッケローニ体制下の4年間で追い求めてきたスタイル

イタリア人のアルベルト・ザッケローニ監督に率いられた4年間で、日本サッカー界は初めて独自のスタイルを追い求めてきた。要約すると

「自分たちがボールを保持する時間を長くして主導権を握り、テクニックと瞬発力、組織力、あるいはインテリジェンスを駆使しながら、スピードに乗って相手の守備網を崩す戦い方を敵陣で継続していく」

ということになる。

ピッチの上で実践するには、「相手のボールホルダーをサイドに追い込んでボールを奪うプレス」「運動量を支える心身の良好なコンディション」が必須となる。

2013年11月の親善試合で見られたように、その戦術がはまったときには、今大会でも旋風を巻き起こしているオランダと引き分け、ベルギーから逆転勝ちを収めるといった結果も残している。

当然ながら相手も日本を研究し、そのストロングポイントを封じ込めにくる。コートジボワールは中央にボールと人を集め、日本の組織的な守備を無力化させた。全員が自陣に引き、強固なブロックを形成するギリシャの堅守ぶりは、退場者を出してからより顕著になった。

決定的に足りなかった「リスクを冒す勇気」

しかし、スタイルが手詰まりとなると、日本はピッチの上で逡巡(しゅんじゅん)してしまった。実際にプレーした選手たちは必死だったはずだが、逆境を乗り越える気持ちを具現化させられなかった。何よりも足りなかったのは「リスクを冒す勇気」。特にギリシャ戦は歯ぎしりを覚えたファンも少なくないはずだ。

パスとは「責任」を受け渡すプレーだ。パスの出し手は相手に「責任」を渡した後、スペースへ向けて走り、再びパスを受ける。つまり、自ら渡した「責任」を引き受けなければいけない。しかし、ギリシャ戦における日本は横方向へのパスを繰り返すだけで、誰もブロックの中へ侵入しようとしなかった。

日本のボールポゼッションが68%に達したのは、ギリシャの青写真通りだった。ボールを「持たされた」結果であり、厳しく表現すれば「責任」を背負うことから逃げていたことになる。ギリシャのカウンターを必要以上に恐れ、ミスを犯すことに対して臆病になった代償はあまりにも大きかった。

「心の強さ」をも追い求める4年間はすでに始まっている

たとえボールを失ったとしても、攻守を素早く切り替えて組織で奪い返せばいい。しかし、頭では理解していても深層心理の部分で拒絶してしまった原因は、ザッケローニ体制うんぬんよりも「責任」という概念に対する日本の文化や風土、選手たちが受けてきた教育に起因するのではないだろうか。

追い詰められたコロンビア戦でリスクを冒す姿勢を貫き、幾度となく決定機を作ったことからも、この4年間で目指してきた方向性は決して間違ってはいなかったと個人的には思っている。代表監督が変わっても不変のものとして、日本代表のオリジナルとして完成度を高めていってほしいとも思う。

しかし、4年に一度の大舞台で世界と対峙(たいじ)する上で、日本は「心の強さ」という根本的な部分で劣っていた。これでは戦う前からすでに負けているに等しい。シュートを打つべき場面で躊躇(ちゅうちょ)して、パスを選択する場面が多いことも、最終的には「責任」という言葉が絡んでくる。

最後にようやく顔をのぞかせた「らしさ」にさらに磨きをかけながら、心の奥底に巣くっている病巣をどのようにして除去していったらいいのか。4年後のロシア大会へ向けた戦いはすでに始まっている。

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筆者プロフィール : 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。