宇宙航空研究開発機構(JAXA)は5月28日、現在、米国テキサス州ヒューストンに滞在している若田宇宙飛行士とテレビ会議を使用する形で記者会見を開催した。

若田宇宙飛行士は冒頭、「半年間の任務から無事帰還しました。半年間の飛行に当たっては、日本の多くのみなさんに応援をいただき、本当にありがとうございました」と、応援をしてくれた多くの人たちに感謝を述べたほか、「今年の3月11日は、東北地方の皆様に思いをはせていました。半年間、宇宙から東北地方の街の明かりを何度も見る機会があり、その力強い明るさから、東北地方の皆さんが頑張っているという印象を受けた」と、東北地方の復興に対してエールを送った。

また、記者陣からは、主に、宇宙から帰還した現在の状況、コマンダーを務めてどうであったか、ウクライナ問題とそれに関連したロシアと米国の関係性、そして今後の方向性、といった質問が寄せられた。

宇宙から帰還して以降、ここまでの2週間は体力的な機能の回復に向けたリハビリのほか、実際に被験者として参加した17項目の実験のデータ取得のための検査などを行っているとする。また、約半年間の国際宇宙ステーション(ISS)滞在中の日々の運動の効果により、体力はISSへ行く直前とほとんど変わらない状態を維持できていたとのことで、「宇宙でも地上と同じ、規則正しい食事、睡眠、運動が重要だと感じた」とこれまでの経験を踏まえて語った。

コマンダーを務めたことについては、「各宇宙飛行士とのコミュニケーションもさることながら、地上管制局とのコミュニケーションによる関係の維持が苦労した」としながらも、そうした多くの人たちとのチームワークの成果により、大きな問題に至る前に状況を改善させ、ミッションを遂行できたことには喜びを感じているとした。また、日本人宇宙飛行士には、リーダーシップを発揮できる人が多くいるので、将来、そうした人たちがコマンダーを務める機会を獲得する努力を忘れずに行っていくことが重要とし、経験を生かしてサポートして行きたいとしたほか、地上の運用管制チームの中にも世界でリーダーシップを発揮できる人たちがたくさん居ることも示されたとのことで、ハード面やソフト面のほか、人的資質の面でも高めることができたことは大きな成果で、日本が有人宇宙開発分野で今後、リーダーシップを発揮していくうえで重要になってくるとした。

また、ウクライナ問題とそれに端を発する政情不安については、米国の宇宙飛行士やロシアの宇宙飛行士とともに滞在していたISSでも話をしたが、それがミッションに影響を及ぼすことはなかったとし、「宇宙開発、宇宙での仕事は人類の種の保存に向けた危機管理という意義もあり、世界の英知を結集し、科学技術を進めるというもの。地上の問題で、こうした取り組みが後戻りしてしまうと、大きな影響があると思う」とし、宇宙での成果が広く普及してもらいたいという強い思いを述べた。

そして今後の予定については、「生涯現役で頑張りたいと思う」と述べ、米国やロシアでは50代、60代の宇宙飛行士が宇宙に行っていることを引き合いに出し、「いばらの道かもしれないが、日本の有人宇宙飛行の発展のために努力していきたい」と述べ、まだISSでやり残してきたと思っている仕事をやりたいと意気込みを語った。また同時に、すでにISSへの登場が決定している油井宇宙飛行士、大西宇宙飛行士の飛行を成功させるために、これまでの経験を生かして支援していくことが最大の目標であるとし、第2、第3のコマンダーの誕生に向けた努力と合わせて進め、ISSの先にある有人宇宙活動、月や小惑星、火星など、人類がフロンティアを展開していく中で、日本がISSで得た経験や人的リソースを活用していけるよう、宇宙飛行士の立場から尽力していきたいとした。

このほか、将来の宇宙飛行士候補である子供たちに対しては、「人間は一人ひとりが誰にも負けない素晴らしい力を持っている。自分の興味はどこにあるのか、どんなに辛くても頑張れる分野を見つけてもらいたい。夢から明確な目標を定めて、もし失敗してもあきらめないでもらいたい。その努力の過程で得たものは将来の役に立ち、それが夢にまたつながっていくと思うので、頑張っていってもらいたい」とエールを送った。

なお、若田宇宙飛行士は8月に日本にて帰国報告会を開催する予定なので、楽しみにしていて欲しいとしていた。

記者会見を行う若田宇宙飛行士(出典:JAXA)