大塚製薬は5月15日、同日より始動する民間企業による月面到達プロジェクト「LUNAR DREAM CAPSULE PROJECT」に参画することを発表した。

「LUNAR DREAM CAPSULE PROJECT」のロゴマーク

同プロジェクトは2013年に米国航空宇宙局(NASA)が月には地球と同じ成分の「水」が存在する可能性がある、という報告を受け、実現に向けて動き出したもの。これまでの宇宙開発は国家主導であったものを、民間企業や大学のみで月に「ポカリスエット」を地上約38万km先にある月に送り届けようというもので、世界中の子供たちの夢が書かれたチタン製のプレートとともにタイムカプセル「LUNAR DREAM CAPSULE(ドリームカプセル)」に粉末のポカリスエットを詰めて月面表面にカプセルを置き、将来、夢を書いた子供たちの中から宇宙飛行士が誕生し、実際に月に至り、月の水でポカリスエットを作って飲んでもらうことまでを期待したものとなっている。

プロジェクトメンバーには、大塚製薬のほか、シンガポールの「ASTROSCALE」がプロジェクトリーダーとして参画。企画・設計、製作、実験、米国側との調整、宇宙の知識に関する支援などを行っているほか、米「Astrobotic Technology」がポカリスエットを月に届ける着陸船「GRIFFIN」の開発を手掛けている。また、ドリームカプセルの開発には、日本の中小企業として「由紀精密」、「海内工業」、「電化皮膜工業」などが参加しているほか、技術協力として東京大学 大学院工学系研究科の中須賀・船瀬研究室、九州工業大学 宇宙環境技術ラボラトリー、同大 超小型衛星試験センター、九州大学 大学院 工学研究院航空宇宙工学部門が参画している。

プロジェクトチームの概要

同プロジェクトについて、大塚製薬の代表取締役副社長である梅野雅之氏は、「NASAが月に水がある可能性を発表して以降、ぜひ参加したいと思っていた。ドリームカプセルに世界中の子供たちの夢を詰めて、38万km先の月に挑戦する。将来、子供たちが自らの力でドリームカプセルを取りに行ってくれる日を期待している」とコメントしたほか、同社製品部ポカリスエットプロダクトマーケティングマネージャーの浅見慎一氏は、同プロジェクトを行うにあたって、「新興国の子供は目の前に実在する先生や警察官といった存在をヒーローとして、将来に対するあこがれをもち、一方の新興国は将来に対する選択肢が多すぎるが故に大きな夢を抱くのを忘れてしまったのが、今の社会ではないかと思う。このプロジェクトを通して子供たちが夢を描き、前向きになって挑戦してもらえるようになれば」と述べ、「子供たちの夢を詰めたカプセルが月にあれば、夢を追う子供たちが挫けそうになった時、月を見上げるたびに、月に誓った言葉を思い出してもらえ、それが再び走り出す力になるのではないか」とし、その挑戦による渇きをポカリスエットで癒してもらえればとした。

大塚製薬の代表取締役副社長である梅野雅之氏

同製品部ポカリスエットプロダクトマーケティングマネージャーである浅見慎一氏

また、ポカリスエットは1980年に発売されて以降、さまざまなチャレンジを応援してきており、2001年には国際宇宙ステーション(ISS)でのCM撮影も実施しており、今回、新たなポカリスエット自身のチャレンジとして、飲料として史上初めての月面到着を目指すとしたほか、「夢を持った子供たちがいつか月面に降り立ち、実際に月の水が飲めるかどうかはまだわからないが、粉末のポカリスエットをカプセルから取り出して、月の水で溶かして飲んでもらい、その瞬間を見る、というのが自分の夢」と語った。

ちなみにこのプロジェクトのプロジェクトリーダーを務めるASTROSCALEのCEOである岡田光信氏は、「このプロジェクトは情熱で動いている。かくいう自分も1988年の高校生の時に米国で毛利衛宇宙飛行士(当時)に出会って、"宇宙は君たちの活躍するところ"というサイン入りメッセージカードを受け取ったことが原点」と語り、その時受けた衝撃を何百倍、何千倍にして、今の子供たちにお返しする機会を得たと思っていることを強調した。

ASTROSCALEのCEOである岡田光信氏と、同氏を宇宙に挑ませる原点となったともいえる毛利衛氏のメッセージカード

また、大塚製薬が参画していることについて、同氏は同社以上にその意義を感じており、「月に水があったということで、月面に持っていくカプセルは水のイメージである青。ポカリスエットの青は海のブルーをイメージしたものですが、そうした共通点があるほか、ポカリスエットは発売以来、成分を変えていない。だからこそ、(子供たちが大人になって、宇宙飛行士として月に行けるころである)30年先でも売られている商品の成分は変わっていないと思っている。ミッションがぶれないという意味でも、そうした理念を持つ大塚製薬の参加が重要だと考えている」と熱く語り、「メンバーが総勢で何百人いるかははっきりとわかりませんが、全員情熱だけで動いています。それを皆様には長い目で支えていただければと思います」とした。

その月に届けられることとなるドリームカプセルの外観はほぼほぼポカリスエットと同じサイズながら、内部を構成する部品点数だけで70点あり、ロケットの加速度や真空状態、紫外線、放射線への対応、30年後に月面に行っても簡単に開けられる、といったさまざまな検討される事案に対し1つひとつ情熱を注いで開発が行われたという。中でも外装の青い塗料は「日本の中小企業の全精力を費やした」と岡田氏が表現する力の入れようで、NASAのアウトガス試験をしっかりとクリアできるものに仕上がったとする。もう1つは、ポカリスエットの缶の素材でもあり、カプセルのボディにも用いられているアルミニウムで、薄くしつつ高い剛性を実現するために切削加工を施すことで実現しているという。

内部は円筒状になっており、そこに3万8000人分の夢が50μmサイズの文字となって120枚のチタンプレートに刻み込まれ納められることとなる。また、このドリームカプセルは密閉されており、専用の「ドリームリング」を用いて、上部の差込口にリングを差し込んで回転させないと開かない仕組みとなっている。

ドリームカプセルの実物。ドリームリングを上部に挿し込むことで開くことができる。内部は円筒形をしており、その上部にチタンプレートが、下部の銀色の筒状のところにポカリスエット(粉上)が納められることとなる。ちなみに地球上で粉末のポカリスエットが30年持つかというと、法的な消費期限はともかく、酸化してしまうため、現実的ではないが、真空中に密閉状態での保存であれば持つことは確認しているとのこと

なお、ドリームカプセルは2015年10月にSpaceXのファルコン9で打ち上げられ、その後、Astroboticが開発を行っている着陸船「GRIFFIN」により月へと運ばれる計画。着陸地点は死の湖を予定しており、GRIFFINから切り離され、月にタッチダウンすることとなる。

地球から月へと至る行程のイメージと着陸船「GRIFFIN」のイメージ。現在、順調に開発が進んでいるという

カプセルに搭載されるメッセージは、2015年5月までプロジェクトサイト内の「LUNAR DREAM MESSENGER」から投稿することができるほか、各所でイベントを行って、その場で描いてもらうということも行っていくとのことで、イベントに参加した子供にはドリームリングが渡される予定だという。

会見場となった東京スカイツリータウンにあるプラネタリウム「星空」にも専用用紙とプロジェクトの説明看板、受付箱などが用意されていた

左からAstrobotic TechnologyのCEOであるJohn Thornton氏、ASTROSCALEの岡田光信氏、大塚製薬の浅見慎一氏、同 梅野雅之氏、元宇宙飛行士の山崎直子氏、内閣府特命担当副大臣の後藤田正純氏

会場では、山崎直子氏とロンドン五輪競泳銅メダリストの寺川綾氏によるトークショーも行われた

ドリームカプセルの構成 (C)ルナ ドリームカプセル プロジェクト

ドリームカプセルの月面到達イメージ (C)ルナ ドリームカプセル プロジェクト