九州大学(九大)と東京工業大学(東工大)は、太古の月には地球と同じように大規模な磁場が存在していたこと、現在とは数十度異なる自転軸だったことを明らかにしたと共同で発表した。

成果は、九大大学院 理学研究院の高橋太 准教授、と東工大大学院 理工学研究科の綱川秀夫教授(グループリーダー)らの月探査機「かぐや」月磁場研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間5月4日付けで英学術誌「Nature Geoscience」オンライン版に掲載された。

現在の月には地球のような大規模な磁場は存在しないが、月岩石試料の実験から、約40億年前には磁場が存在していた可能性があるといわれている。この磁場は、月中心にあるコアのダイナモ作用(天体が大規模な磁場を生成・維持するためのメカニズムで、高温で液体状のコアが磁場中を運動する際に起こる電磁誘導現象によって生じる)によって作られていたと考えられ、月の起源と進化を理解する上で非常に重要な要素だという。

一方、人工衛星の探査により、月には局所的に磁場の強い地域(磁気異常)が数多く存在していることがわかり、磁気異常は40億年前の磁場を記録していることが確認されている。近年の月探査機「かぐや」の観測などにより磁気異常データが飛躍的に増え、過去の月磁場を復元することが可能になってきた。

今回の研究では、「かぐや」に搭載した月磁力計および、米・月探査機「ルナ・プロスペクタ」の観測結果による大量のデータを使い、磁気異常から磁極を推定することを月の広い地域に対して実施された。これらの磁気異常が解析され、約40億年前の月の磁極が推定されたところ、現在の月の極付近と月裏側の中低緯度付近の2カ所に磁極が集中していることが判明したのである。この結果から、太古の月には、地球と同様に中心コアのダイナモ作用による大規模磁場が存在していたことがわかったというわけだ。

地球などの天体における磁極の位置は自転軸の極とほぼ一致するという性質を利用すると、過去の月の磁極から自転軸の位置も推定できるという。2カ所の内の1つが30~45度ずれていることから、当時の月の自転軸は現在と比較して数10度ずれた位置にあったとした(画像1~3)。約40億年前の月は、現在と異なる面を地球に向けていたというわけである。

画像1(左):過去の月の磁極を現在の月北極側から見た図。青い星印はかぐや衛星データによる結果。赤い星印はルナ・プロスペクタ衛星データによる結果。今回の論文で使用された図より一部改変されたもの。画像2(中):過去の月の北極と南極の位置。画像3(右):現在の北極と南極の位置

過去の月にダイナモ作用による大規模磁場が存在していたことは、月に十分な大きさの中心コアがあることなど、月の起源と進化のみならず、地球・月システムを理解する上で非常に重要だという。さらに、今回の研究成果では月の向きが変わるという重要なイベントが過去に起きたことが解明された。従来の月形成・進化モデルはその多くが現在の自転軸位置を暗に仮定していることから、今後は新たな月進化モデルの構築が課題となるとし、今回の成果は新しい地球・月システム進化のモデル構築や新しい月探査計画への科学的寄与が期待されるとしている