窒素固定の研究で新しい成果が出た。常温常圧の条件下で窒素ガスからアンモニアを合成する反応で鍵を握る中間物質の単離に、東京大学大学院工学系研究科の西林仁昭(にしばやし よしあき)准教授と九州大学先導物質化学研究所の吉澤一成(よしざわ かずなり)教授らが初めて成功した。窒素原子で連結された2個のモリブデンの間で電子の受け渡しが起きてアンモニアを合成するという触媒のユニークな機能も解明した。高温高圧下でアンモニアを合成するハーバー・ボッシュ法に代わる、次世代型の窒素固定法に道を開く成果といえる。4月28日付の英科学誌ネイチャーコミュニケーションズのオンライン速報版に発表した。

図1. モリブデン錯体触媒によるアンモニア合成法の概略

ハーバー・ボッシュ法は100年以上も前にドイツで開発され、工業的な窒素固定法として世界中で窒素肥料の製造などに広く使われ、20世紀最大の発明のひとつとされる。しかし、高温高圧(400~600度、200~400気圧)が不可欠で莫大なエネルギーを使う欠陥がある。このため、より温和な条件による効率的な窒素固定法の開発が、環境的にクリーンで持続可能な「アンモニア社会」を実現するために待望されている。

図2. 今回解明した新しいアンモニア合成の触媒の詳しい仕組み

西林東京大准教授らは2010年に、窒素分子が2つのモリブデンを架橋した2核錯体を触媒に使って、常温常圧でアンモニアを合成する方法を開発していた。この反応の仕組みを知るため、吉澤九州大教授らと共同で、アンモニア合成の鍵を握る中間物質を単離して、モリブデンと窒素の間に3重結合を持つ単核錯体であることを突き止めた。また、窒素分子で連結された触媒中の2個のモリブデン間で電子の受け渡しが起きて、アンモニア合成が進んでいた。こうして、水素を使わずに、電子やプロトンの授受を6回ずつ繰り返す新しいアンモニア合成の触媒機能の全体像を詳しく解明した。

西林東京大准教授は「われわれのアンモニア合成法の触媒の仕組みがわかったことで、この触媒をどのように修飾していけば、飛躍的に触媒活性を高めることができるか、方向性を明確にすることができた。今回解明された反応は、従来の金属錯体系の触媒と比べると、かなり珍しい仕組みで進行していることも興味深い。より実用的な触媒を開発して、原料として水素を使わずに、窒素と水から光エネルギーでアンモニアを合成する究極の目標に向かって、次世代型の窒素固定法に成長させたい」と意欲を示している。

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