アジアで仕事をするうえで、知っておきたいスキル。

それはいくつもあるが、必ず押さえてほしいひとつとして、はっきりとした根本的な力関係、変わらない関係があることをたたき込んでおいてほしい。

警察に力がないなんて

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大きな展示会を開催しようとしたときのことだ。国名はあえて伏せておきたい。展示会の準備の詳細を詰めていく過程において、問題が出てきた。「会場周辺の安全のために、チンピラにお金を払うべき」と現地のスタッフが言い出した。

日本ではありえないことが多いアジア。なんでもかんでも否定はしないが、賄賂が必要という話には、どうも乗り気がしなかった。

「大きな展示会場だし、警察もすぐそばにいるから大丈夫じゃない? むしろ、警官を雇うことはできないか?」そう質問した矢先だった。

「あそこにいるのがチンピラです。その先に交番が見えるでしょう?」

確かに駐車場には、何やらガラの悪そうな輩がいる。そして、車を停める人が来ると、そばに行って話をしていた。

「あれは駐車料金ですよ」

でもそこは、公共の無料駐車場。

「ここってタダだよね?」
「はい、そうです。でも彼らはお金を取ります」
「警察は何もしてくれないの? 知らないはずがないでしょう?」
「みんな知っています。でも、見て見ぬふりですよ。警察には力がありません」

駐車場での出来事は、どうも納得がいかないものだった。警察に力がないなんて…。ちょっとムッとした私は、続けて質問をした。

「警察の言うことを聞かないチンピラが、この町で1番力があるってことかな? それならば、展示会の進め方も変えなければいけないよね?」
「いえ、チンピラより力がある人はいますよ」
「それは誰?」
「軍隊です」

あっけにとられたが、それが実情だという。

さらに、軍隊にもいろいろな人がいて、チンピラを排除するのに軍隊へお金を払えという輩もいる。つまり、力のあるものが権限を持つということだ。

さらに、 「じゃあ、軍隊を仕切れる人は誰になるの?」
「政治家ですね」

うむ、そういうことか。 ちなみに軍隊レベル以上だと、役所の言うことは聞かないそうだ。なんとなく、その国の勢力図が見えた気がした。あくまでコーディネーターの主観だが、そう間違ってはいないだろう。

日本人には、見えない力

帰りの渋滞の街中。ガソリンの残量がかなり少なくなったので、一番近くのガソリンスタンドに入った。中はガラガラだ。こんなに渋滞しているのに、ガラガラ…? 運転手に聞いてみると、フランス資本のスタンドで、価格が非常に高いせいだ。

給油後にちょっと走ると、別のスタンドを見つけた。車が数台。

「ここはアメリカ系のスタンドです。フランスよりもちょっと安いです」

またしばらくすると、バイクで満員のスタンドを見つけた。

「ここは安いので、いつも混んでいます。ガソリンを入れるのに30分待つこともあります」

この価格差の理由はわからない。品質? サービス? 国が相手企業にかけた、関税や手数料の差かもしれない。

こうしたとき、先ほど書いた「力」が影響を及ぼしているのだろうかと、臆測のひとつもしたくなる。お金のある人は時間を有効に使い、安く済ませようとする人は時間を浪費する。

日本人には、見えない力。

現地パートナーの声は重要だと感じた瞬間だった。


秋山岳久
1963年生まれ。東京都出身。大手ITメーカー勤務。PCのマーケティング担当する傍ら、アジアで活動するバンド「GYPSY QUEEN」のリーダーを務め、ブルネイ、カンボジア、ラオス、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム、中国、モンゴル、日本の10カ国において10年間で130回以上の公演活動を実施。特に中国では、17都市70回以上の公演を行い30万人を動員。その他、ASEANに関連するイベントや観光交流の事務局を務め、国のトップから実務担当者まで、10カ国で500人以上と接点を持つ。著書『アジアで勝ち抜くビジネススキル』(パブラボ/1,500円+税)