大阪市立大学は、新式の内視鏡システム「狭帯域光観察(narrow band imaging:NBI)」を使うことにより、ヨード剤使用の検査と同じくらい食道がんを発見し診断できる効果があることを明らかにし、同時に患者の体への負担を軽減することにより、食道がんの早期診断に役立つことがわかったと発表した。

成果は、大阪市立大 大学院医学研究科の永見康明医師らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間4月22日付けで米消化器病学会雑誌「American journal of Gastroenterology」電子版に掲載された。

「食道扁平上皮がん」は複数の種類があるが、日本においては「扁平上皮がん」が大多数を占め、飲酒や喫煙がリスクと想定されているがんだ。その予後は不良で、すべての臨床病期全体での5年生存率は10~15%と報告されている。また、食道と同じ扁平上皮から構成されるのどや口腔内などの咽頭がん、喉頭がんなどの頭頸部がん患者や、食道がん内視鏡治療後の患者は、食道がんのハイリスク群であり、食道がんの高い出現率が報告されているという。

このような患者たちでは、食道がんを早期発見することで、内視鏡治療や外科手術による治癒が期待でき、長期予後が期待できる。しかし、通常の内視鏡観察では早期の食道がんを発見することは難しく、これまではヨード剤を併用してきたが、胸やけや気分不快といった刺激症状が強く、多くの組織検査が必要なことも問題点とされていた。

近年開発された特殊光観察の1つであるNBIシステムは特殊なフィルターを用いて、粘膜表面で反射する短い波長光の特殊な光でのみ内視鏡観察するシステムである。手元のスイッチでワンタッチ切り替えが可能なため、ヨード染色法と比べて患者の負担も少なく、どの部位でも使用できるなどのメリットを持つ。NBI併用拡大内視鏡は食道がんの発見に通常の400~800nmのさまざまな波長が混在した白色光よりもすぐれ、ヨードとも同等の診断精度を示すという報告もなされている。しかし、日常臨床で使用される非拡大内視鏡(拡大内視鏡は85倍まで拡大できるが、非拡大内視鏡は通常倍率のもの)を用いた検討は不十分だった。

そこで研究チームは今回、前述した食道がんのハイリスク群である頭頸部がん患者と食道がん内視鏡治療後の患者を対象として、前向きに(この場合の「前向き」は、開始してから生じる現象を収集、調査する研究のことをいい、過去に起こった現象を調査する場合を「後向き」という)白色光、非拡大NBI内視鏡、ヨード染色による内視鏡検査を行い、食道がんを疑う所見を認めた場合には組織検査を行い、それぞれの方法による診断精度の比較が行われた(画像)。

なお検査は白色光、NBI、ヨード染色の順で行われたが、直前の検査の「インフォメーションバイアス」(既知の情報によりその後の結果にバイアスが生じることを指す)をなくすために、統計学的手法の疑似ランダム化が行われ、非拡大NBI内視鏡がヨード染色法と比較して、食道がんの発見、診断に有用であるかの検討がなされた。

画像1(左):白色通常光。画像2(中):非拡大NBI内視鏡。画像3(右):ヨード染色法。非拡大NBI内視鏡の感度、特異度、正診率は88.3%、75.2%、77.0%。ヨード染色法はそれぞれ94.2%、64.0%、68.0%。感度に関しては若干ヨード染色法の方が上だが有意差は認められるほどではなく、特異度と正診率に関しては非拡大NBI内視鏡検査が上回っていた。より信頼度の高い疑似ランダム化による傾向解析を用いた場合でも同様の結果が得られたという

よってNBIなら患者の負担を軽減しながらも、食道がんを早期発見することができるようになるというわけだ。その結果、食道がんを根治するような早期治療を行うことができ、予後の改善に結びつくのではないかと考えられるとしている。

NBI内視鏡はヨード染色法と同等もしくはより高い診断精度が得られる結果となった形だが、ヨード染色法よりも若干感度が落ちることから、NBI内視鏡のみで長期的に経過観察した場合に食道がんを見落としてしまう可能性があるかも知れないという。そこで研究チームはさらに、食道がん内視鏡切除後の患者にNBI内視鏡のみを用いて長期間経過観察を行い、異時性再発病変を内視鏡治療が可能な早期に診断することができるかを検討するため、現在、前向き臨床試験を行っているとした。