九州大学(九大)は4月14日、酸化されたDNA(8-オキソグアニン)がほ乳類の生殖細胞における自然突然変異の原因となることを確認したと発表した。

同成果は、同大大学院医学研究院の大野みずき 助教と生体防御医学研究所/ヌクレオチドプール研究センターの作見邦彦 准教授、理化学研究所バイオリソースセンターの権藤洋一チームリーダら、長浜バイオ大学の池村淑道 客員教授らによるもの。詳細は、国際学術雑誌「Nature」の姉妹誌の「Scientific Reports」に掲載された。

細胞分裂の際、遺伝情報であるDNAの塩基配列の複製が行われるが、その正確さは100%とは言えない。親の細胞とは異なる遺伝情報が生じることを「突然変異」と呼ぶが、この突然変異が体を構成している細胞のがん抑制遺伝子に発生すると、細胞ががん化するきっかけとなることが知られている。

一方で、生殖細胞を産生する過程で生じた突然変異は子孫へと伝達され、生物の進化の原因となったと考えられている。こうした外部要因に起因しない突然変異(自然突然変異)は、近年、次世代シーケンサーによるゲノム解析により、ヒトでは1世代あたり核ゲノムDNA上の約60カ所で生じていること、父親の加齢によって、その頻度が増加する傾向があることなどがわかってきたが、どういった因子が生殖細胞の突然変異に影響しているのかは不明であった。

今回研究チームは、酸化によってDNA中に生じた8-オキソグアニンを除去、修復できないように遺伝子を改変したマウスを用いて、DNA中に自然に蓄積した8-オキソグアニンに起因する突然変異の解析を行ったほか、同遺伝子改変マウスを8世代まで交配させ、家系内の各世代で新たに生じた変異を蓄積させ、最も世代の進んだ個体のDNA配列を解析することで、発生した変異を効率的に検出することを可能にした。

実際に、このマウスの家系を調べたところ、子孫に水頭症や特殊ながんの発生、毛色の変化など遺伝性の表現形質の変化が観察されたとのことで、さらなる調査のために、生殖細胞突然変異が最も蓄積していると考えられる3匹のマウスを選択し、そのDNAを次世代シーケンサーにて解析したところ、同マウスでは1世代当たりの生殖細胞突然変異発生率が野生型マウスと比較して約18倍上昇していることが判明したという。発見された変異の99%は8-オキソグアニンに起因するG-Tトランスバージョンという種類の突然変異で、その約60%が遺伝子の機能に影響を与えるものであったという。

なお研究グループでは、今回の成果について、ヒトの遺伝子病が新たに発生する原因を説明し、個人間で特定の病気のかかりやすさに差があるなどの個体差を生む原因の解明につながることが期待できるとするほか、一人一人が違った特徴を持つことの遺伝的要因、すなわち遺伝的多様性の発生機構、さらには生物の進化に酸素がどのように関わってきたのかという普遍的な疑問を遺伝子の変化の観点から解明するための糸口になると説明しており、今後、同様の手法を用いて、親の性別や年齢、さらに酸化DNA以外の因子がほ乳動物における生殖細胞突然変異の発生に与える影響を解析していく予定だとしている。

生殖細胞における突然変異と体細胞における突然変異の違い。体細胞に突然変異が生じると腫瘍の原因になるが、生殖細胞に突然変異が生じると子孫に伝達され、さまざまな表現型の原因となる。活性酸素によりDNAが酸化すると8-オキソグアニンが生体内で自然発生し、これらの突然変異の原因となることが今回の研究で明らかになった。(図中のピンクの○が突然変異を持つ細胞を示したもの)