日立製作所は4月9日、海外の設計、開発、研究拠点から、日本に設置されたスーパーコンピュータなどの技術計算環境を日本国内の拠点と同様に利用できる基本技術を開発したと発表した。

設計、開発、研究業務の海外現地化の促進においては、日本と同様にシミュレーションツールやスーパーコンピュータなどの技術計算環境を整え、信頼性や性能の確保が必要となる。しかし、海外の開発拠点ごとに技術計算環境を構築するためには多大なコストがかかる。また、海外から日本にある技術計算環境を利用する際は、海外と日本の間で大規模な設計データや計算結果を転送する必要があるため、データ転送に多大な時間がかかるという課題があった。そこで今回、米国とインドの拠点を対象として、数Gバイトから大きいものでは数Tバイトにのぼる設計データやシミュレーション結果を拠点間で共有する技術計算環境(設計クラウド)を構築するために、データの転送時間を大幅に短縮可能な高速転送技術を開発した。

具体的には、転送データの容量を低減するために、データ構造に適したデータ圧縮/復元技術を開発した。同技術は、データの評価検討に重要な部位の情報のみを抽出し、それ以外の情報は、圧縮率の高いデータ圧縮を行う。重要部位の情報と、圧縮した情報を転送後に組み合わせて復元することで、重要部位の情報の精度を落とさずに、データ量を大幅に低減したデータ転送を実現する。パワーエレクトロニクス製品の大規模流体解析結果データを用いた検証では、同圧縮技術の適用により、データ容量を1/10~1/100に低減できることを確認したという。

また、同社が有するネットワーク高速化技術を日本、米国、インドの各研究開発拠点に導入し、回線帯域を最大限に活用することで、データ転送の高速化を図った。回線帯域の大きい日本、米国拠点間では17倍、回線帯域の小さい日本、インド拠点間においても2.4倍の高速化効果が得られることを確認した。なお、同技術を搭載したネットワーク高速化装置は、WANアクセラレータ「GX1000」シリーズとして販売を行っているという。

データ圧縮技術とネットワーク高速化技術の2つを組み合わせた結果、シミュレーション結果のデータ転送時間を1/100以下に低減でき、日本・米国拠点間では170倍、日本・インド拠点間では120倍の高速化効果が得られることを実証した。これにより、回線帯域が国内より一桁低いインドの拠点においても、国内と同等の時間で、日本のシミュレーション環境を使用できることを確認した。

研究開発グループでは、今回開発したデータ高速転送技術を用いて海外研究開発拠点におけるシミュレーション活用を加速させ、海外拠点で開発設計する製品の性能や信頼性を高め、日立グループのグローバル展開を支援していくとしている。

技術計算クラウドの概要図