産業技術総合研究所(産総研)は4月1日、磁気抵抗効果と磁極の首振り運動を利用したスピントルクダイオードの性能を、非線形効果を採用することで向上させ、半導体ダイオードを上回る感度を実証したと発表した。

同成果は、産総研ナノスピントロニクス研究センター 金属スピントロニクスチーム 研究チーム長である久保田均氏らによるもの。詳細は「Nature Materials」に掲載された。

今回の研究で開発されたスピントルクダイオードは、ナノオーダーの厚さを持つ鉄ボロン合金ならびにコバルト鉄ボロン合金の2枚の磁石と、酸化マグネシウム層からなる磁気トンネル接合素子で構成されている。出力の向上のためには、磁極の首振り運動の振れ場を大きくする必要があるが、今回は、素子形状を円形に設計したほか、鉄ボロン層の上に酸化マグネシウム層を配置することで、それを実現したという。

この結果、半導体ダイオードを上回る検出電圧を得ることができたとするほか、直流電流を加えることで、検出電圧を増大できることも発見し、この理由が、磁極の首振り運動の回転軸の傾きにより説明できることも見出したとする。

なお研究グループでは、同素子は非線形効果により、素子を小型化すると雑音以上に信号が増加することから、半導体を信号雑音比において上回ることが可能なスピントルクダイオードの実現につなげることができるとしており、今後、高感度・小型・高速チューニング・低抵抗・周波数選択性などの特性を生かし、通信機器や車載レーダーといった高周波エレクトロニクス分野にスピントルクダイオードを応用していくことを目指すとしている。

今回開発したスピントルクダイオード素子の模式図