早稲田大学(早大)は4月1日、長崎大学との共同研究により、食事制限による寿命延長、抗老化作用に関して、神経細胞で発現している神経ペプチドの1つである「ニューロペプチドY(NPY)」が重要な役割を持つことを明らかにしたと発表した。

成果は、早大 人間科学学術院の千葉卓哉教授(早大 学応用脳科学研究所)、長崎大学医学部の下川功教授らの共同研究チームによるもの。

約80年前、ネズミに与えるエサを自由に食べる量の30%程度減らす食事制限を行ったところ、寿命が延長することが確かめられ、その後も、ヒトに近い霊長類であるサルを含めて実験動物による研究で、食事制限によってガンや生活習慣病、アルツハイマー病に似た神経疾患などの発症を抑制する、普遍的な抗老化作用が再現されてきた。しかし、長らくその分子メカニズムの詳細は不明のままだったのである。

一方、20年程前から長寿に関わる遺伝子が、線虫やショウジョウバエなどの下等生物や、マウスなどのほ乳類で報告されるようになってきた。食事制限による寿命延長、抗老化作用に関わる遺伝子についても、下等生物ではいくつか報告されてきたが、ほ乳類ではまだ不明な点が多く残されていた。

今回の研究では、NPYを持たない遺伝子改変マウスに対して食事制限を行っても、活性酸素によって誘導される酸化ストレスに対する抵抗性が高まらず、結果として寿命延長が見られないことが判明。マウスの死因を解析したところ、NPYを持たないマウスでは、食事制限を行っても腫瘍の発生頻度が高く、このことがこのマウスの寿命と関連していることが示唆されたという。NPYは摂食行動を促すホルモンの1種だが、NPYを持たないマウスでは摂食行動やエネルギー代謝に明らかな異常は見られなかった。しかし、食事制限の寿命延長、抗老化作用には、NPYが必須の因子であることが示唆されたのである。

NPYを持たないマウス(Npy-/-)におけるエネルギーの利用と消費は野生型マウス(WT)と同様な制御を受けている。7ヶ月齢のAL(ad libitum:自由摂食)、およびDR(dietary restriction:食餌制限)マウスを用いた実験。画像1(左)の上:呼吸商(RQ:単位時間当たりの二酸化炭素消費量を酸素消費量で割った値)。画像1の下:エネルギー消費量(EE:消費した酸素の熱量を体重で割った値)。画像2(右)の上:給餌21時間後における体重とエネルギー消費量との相関。WT-DR(実線)、 Npy-/--DR(点線)。画像2の下:食前(pre)および食後(post)における体温変化。*, p <0.05対食前群。#, p <0.05, ###, p <0.001, 対食前群(AL)

食餌制限(DR)による寿命延長とストレス抵抗性の増強はNPYを持たないマウス(Npy-/-)では消失した。画像3(左):雄マウスの生存曲線。Npy-/--AL 対 WT-AL, p =0.0736; WT-DR 対 WT-AL, p =0.0028; Npy-/--DR 対 Npy-/--AL, p =0.7151.。画像4(中):雌マウスの生存曲線。Npy-/--AL対WT-AL, p =0.7648; WT-DR対WT-AL, p =0.0004; Npy-/--DR対Npy-/--AL, p =0.3852.。画像5(右):3-ニトロプロピオン酸投与によって誘導される酸化ストレスに対する耐性の解析。Npy-/--AL 対 WT-AL, p =0.2772; WT-AL 対 WT-DR, p <0.0001; Npy-/--AL 対 Npy-/--DR, p =0.0612.

これらの研究成果から、NPYの量を増やす薬などを開発することが、老化に伴って発症率が増加するさまざまな疾患の治療薬になると期待されるとした。