京都大学は3月19日、チンパンジーは「概念メタファー」のようなものを持っており、社会的な順位、あるいはさらに経験を統制された「物の順序」についても、空間になぞらえて処理することを明らかにしたと発表した。

成果は、京大 霊長類研究所の足立幾磨 助教らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、3月18日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

物価が「高騰・下落」する。「高い・低い」成績を収める。気分が「高揚する・落ち込む」。順位が「高い・低い」。このように、本来は空間とは関係のないものに関しての情報を伝えるのに、高いや低いといった空間の位置座標に関する言葉で表現することは日常的に用いられており、かつさまざまな言語で広く用いられている。

この背景にあると考えられるのが、概念メタファーだ。メタファーというと、通常は日本語では隠喩とか暗喩などといわれ、比喩表現と悟らせない形の比喩の1種だが、概念メタファーとは認知言語学の用語で、「ある概念領域を別の概念領域を用いてとらえること」などと説明される。簡単にいってしまえば、別の何かに例えてその主題をよりよく理解することといっていいだろう。

もう少し前述した例を使って具体的な話をすれば、物価、成績、気分、順位などは、物体としてではなく概念として存在し、目に見えずはっきりと認識しにくい関係性を、空間の位置座標的表現になぞらえることで、よりわかりやすくしているというわけだ。こうした概念メタファーは、言語と深く結びつき、言語と共に共進化をしてきたもので、ヒト独自の能力であると考えられてきた。

ところが今回、ヒトに最も近縁な種であるチンパンジーを被験体として実施された2つの研究から、彼らもまた概念メタファーのようなものを持っており、社会的な順位、あるいはさらに経験を統制された「物の順序」についても、空間になぞらえて処理することが示されたのである。

こうした個体間関係などの「関係性」や「順序」といった目に見えない情報を、空間に当てはめて理解することは、情報処理の効率を上げる上で有効であったため、言語とは無関係に、概念メタファーのような処理様式が進化したのだと考えられるという。つまり、少なくともある種の概念メタファーは、言語と共に共進化したのではなく、処理効率向上のために進化した(前適応)ものであり、それが後にヒトの言語に反映されていったと考えるのが適当であることが判明したのである。

また足立助教によれば、今回の研究は、すべての概念メタファーが言語とは無関係に生じたことを示しているわけではないという。おそらく概念メタファーの中には、言語獲得後、2次的3次的に派生したものもあると考えられるとしている。さらに、ヒトとヒト以外の動物の持つ概念メタファーの違いを描き出していくことは、ヒトの言語の独自性を明らかにする上で重要な今後の研究の方向性となるという。そして、チンパンジーがこのような概念メタファーまで持ちながら言語を生み出さなかった原因はどこにあるのか、ヒトとの違いを浮き彫りにすることで、言語進化の道筋が再構築されると考えられるとしている。

実験でのチンパンジーの様子