蓄電池の性能改善は現代の大きな課題である。それに貢献しうる発見がなされた。リチウムイオン電池の急速充電、高電圧作動を可能にする新規な電解液を、東京大学などのグループが開発し、3月24日の米化学会誌オンライン版に発表した。東京大学大学院工学系研究科の山田裕貴(やまだ ゆうき)助教と山田淳夫(やまだ あつお)教授、京都大学の袖山慶太郎(そでやま けいたろう)特定研究員、物質・材料研究機構の館山佳尚(たてやま よしたか)グループリーダーらの共同研究で、リチウムイオン電池の性能を飛躍的に向上させる発見としてインパクトは大きい。

図1. 電解液(右側)から負極(左側)へ、リチウムイオンが移動して充電するイメージ

電気を蓄え、必要なときに取り出せる蓄電池は、電気自動車や省エネ社会実現の中核技術である。現在最も優れた蓄電池のリチウムイオン電池で、充電時間の短縮や高電圧作動が差し迫った課題となっている。リチウムイオン電池は1991年に発売されてから、電極材料などが改良され、年々性能が上がってきた。しかし、電解液の材料はずっとほぼ同一で、革新的な電解液の開発が待望されている。

図2. 今回開発した超高濃度電解液の溶液構造。既存電解液とは異なる特殊な構造を示す

研究グループが開発した新規の電解液は従来の4倍以上の高濃度リチウムイオンを含む“濃い液体”で、既存の電解液にはない「高速反応」と「高い分解耐性」という新機能を持っている。この新機能は特殊な溶液構造によってもたらされるという仕組みを、スーパーコンピュータ「京(けい)」(神戸市)のシミュレーションで明らかにした。

開発した電解液は従来の3分の1以下の時間で急速充電が可能となることを確かめた。既存材料の性能を大きく上回る新世代の電解液として応用できる。また、研究グループは「現状の3.7 ボルトを超え、電気自動車や電力系統のスマートグリッドへの実用に耐えうる5ボルト級の高電圧作動への道を開く」と指摘する。必要とされる特性(耐電圧、反応速度、コスト)に合わせて、多様な電解液の設計が可能という。特許も出願した。

山田淳夫教授は「リチウムイオン濃度を上げると、導電性が悪くなり、どろどろになって電極との親和性も下がるなど、『いいことはまるでない』と思い込まれていた。ところが、リチウムの濃度を濃くすると、陽イオンと陰イオン、溶媒のつながり方の溶液構造が大きく変わって、優れた物性が出てくることを見いだし、電解液に関する通説を覆した。実用化を見すえた研究で、筋の良い技術だと思う。総合的に評価してほしい」と話している。