NIMS、太陽光を源に水から水素燃料を生成できる光触媒物質を開発

 

科学技術振興機構(JST)と物質・材料研究機構(NIMS)は3月24日、太陽光をエネルギー源として水から水素燃料を生成できる新しい光触媒物質「4酸化3スズ(Sn3O4)」を発見したと発表した。

成果は、NIMS 環境再生材料ユニットの阿部英樹主幹研究員と梅澤直人主任研究者らの研究チームによるもの。研究はJST課題達成型基礎研究の一環として行われ、詳細な内容は近日中に「米国化学会発行「ACS Applied Materials & Interfaces」オンライン版に掲載された。

化石燃料や核燃料に代わる「持続可能エネルギー源」の開発は、燃料供給の9割以上を輸入に依存する日本にとって重要な課題だ。太陽光は水力・風力・潮力・バイオ燃料など多くのエネルギー資源の源となる究極の持続可能エネルギーと考えられているが、濃縮・輸送に適した化学エネルギー源、特に自動車などの輸送機関に欠かせない気体・液体燃料の形態に高効率変換する技術が確立されていないため、従来の化石燃料や核燃料を代替できるには至っていない。

「可視光感応型水分解光触媒」は、太陽光の大部分を占める波長400~800nmの電磁波である可視光の照射下において常温・常圧下の水から直接、高効率に水素燃料を生成することが可能なため、持続可能エネルギー源を実現する上で欠かすことのできない機能材料として各所で研究開発が進められており、これまでに「ロジウムドープ・チタン酸ストロンチウム(SrTiO3:Rh)」、「ニオブ酸水素鉛(HPb2Nb3O10)」、「ニオブ酸スズ(SnNb2O)」、「タンタル酸インジウムニッケル(In0.9Ni0.1TaO4)」、「酸窒化タンタル(TaON)」、「銅ドープ・タンタル酸ビスマス(BiTaO4:Cu)」などが開発されてきた。

しかし、それら可視光感応型水分解光触媒の多くは、タンタル(原子番号73)などの希少金属(レアメタル)、あるいは鉛などの毒性重金属を高濃度に含有しているため、コストや環境適応性の面で問題を抱えていた。

そうした中、今回研究チームが作製したのは、地球上に豊富にあり、かつ低毒性のスズと酸素のみから構成される物質「4酸化3スズ(Sn3O4)」で、同じくスズと酸素から構成される「2酸化スズ(SnO2)」や、高活性水分解光触媒として知られる「酸化チタン(TiO2)」が活性を示さない可視光照射下(照射光波長>400nm)で、メタノール水溶液から触媒材料1gあたり1時間につき0.52mlの水素ガスを生成することが可能だという(画像2)。

画像1(左):Sn3O4触媒の電子顕微鏡像。合成された材料は、ミクロンサイズの薄片状結晶の集合体。画像2(右):Sn3O4触媒による水からの水素生成。Sn3O4触媒は、当重量のTiO2やSnO2触媒がまったく活性を示さない可視光照射下で、H2ガスを発生させることが可能

ただし、実用化して広く普及することを考える場合、触媒による水素生産量を評価するには、触媒に含まれる金属の産出量も考慮した「年間最大水素生産量」という観点も重要だという。年間最大水素生産量は触媒材料に含まれる金属元素の年間産出量と、単位金属重量・単位時間当たりの水素発生量を積算した値のことをいう。鉱物原料が豊富であり、年間産出量が多い金属を含む触媒材料ほど、年間に生産できる水素燃料の総量が増える計算になるというわけだ。

具体的な数値としては、まず可視光照射下における金属単位重量・単位時間あたりの水素発生量が、Sn3O4が5400立方m/年/トン(0℃・1気圧)で、前述した最先端の可視光感応型水分解光触媒物質の1つであるBiTaO4:Cuが43万立方m/年/トンと報告されている。そして、スズおよびタンタルの年間算出量はそれぞれ26万tおよび670tだ(スズ年間産出量/タンタル年間産出量=390倍:USGS「Mineral Commodity Summaries(鉱物商品概要)」2010版より)。

以上の値から、Sn3O4およびBiTaO4:Cuの年間最大水素発生量は、それぞれ、5400×26万=14億立方m/年および43万×670=2.9億立方m/年と算出されるということだ。つまり、Sn3O4の年間最大水素生産量は、例えばBiTaO4:Cuと比較して約5倍の値に相当することとなる。

ちなみに、燃料電池実用化戦略研究会が2020年度目標に据える累積の水素燃料電池自動車導入台数である500万台の水素燃料をすべて可視光感応型光触媒で充当すると仮定した場合、Sn3O4およびBiTaO4:Cuはそれぞれ、年間75万tおよび9000tが必要となる。これらはそれぞれ、スズ産出量2.9年分およびタンタル産出量14年分に相当することとなる。

なおSn3O4の発見は、阿部主幹研究員の実験と梅澤主任研究者の理論の連携によって初めて可能となったという。最初に理論的観点から、2価のスズイオン(Sn2+)を含む酸化物が、可視光下での水分解光触媒反応に対して触媒活性を示す可能性が予測されたことから、Sn2+を含みさらに可視光を吸収するために好適な電子構造を持つSn3O4(Sn2+2Sn4+O4)の探索・合成がなされ、その光触媒活性が確認されたということである。

SnO2は、Sn3O4と同じくスズと酸素から構成されているが、Sn4+イオンが形成する伝導電子帯と酸素が形成する価電子帯のエネルギー差が大きすぎる(~3eV)ため、可視光を吸収することができない。一方のSn3O4は、Sn4+イオン由来の伝導電子帯と酸素由来の価電子帯の間にSn2+イオンが新たな電子状態を形成するため、効率的に可視光を吸収することができるという特徴があるという(画像3)。

また、同物質の開発においては、価数の異なるSn2+・Sn4+の2つのイオンを含む酸化物の合成が課題であったとのことで、試行錯誤の末、最終的に圧力ガマを使い、高圧の水中で塩化スズを加水分解することによって、目的のSn3O4結晶を得ることに成功したという。

またSn3O4触媒は、スズの酸化物のみで構成されているため(画像4)、水素燃料の大規模製造に利用した場合、環境負荷や材料コストを抑えることができる点も魅力の1つである。現在のSn3O4触媒は、BiTaO4:Cu比で約5倍の年間最大水素生産量を実現しているが、今後は「助触媒」との組み合わせを最適化することにより、BiTaO4:Cu比で50倍以上の年間最大水素生産量の達成が可能であると見込まれると研究チームでは説明する。

画像3(左):Sn3O4による光吸収・水分解の模式図。主にSn4+からなる伝導帯(エネルギー:+2eV以上)と、主に酸素からなる価電子帯(エネルギー:-2eV以下)の間に、Sn2+と酸素からなる電子状態が形成される(エネルギー:-2eVから0eV)。可視光は、この電子状態から伝導帯への電子遷移によって吸収され、触媒表面における水分解反応にエネルギーを供給する。画像4(右):スズ(Sn)・タンタル(Ta)・ロジウム(Rh)それぞれの世界年間産出量(USGS Mineral Commodity Summaries2010)

なお研究チームでは、将来的には、同触媒を水素燃料電池など、ほかの環境対応型エネルギー技術と組み合わせることで、太陽エネルギーを基盤に据えた循環型社会の実現につなげることが期待できるとしている。



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