東京工業大学(東工大)と神戸大学は、窒化ガスで生成した大気圧低温プラズマをフグ毒として知られる「テトロドトキシン」に約10分間照射することで、濃度が1/100になることを確認したと発表した。

同成果は、東工大大学院総合理工学研究科の沖野晃俊 准教授と神戸大学大学院医学研究科の東健 教授らによるもの。詳細は2014年4月1日付で刊行される日本毒性学会の「The Journal of Toxicological Sciences」に掲載される予定。

フグの毒として知られる「テトロドトキシン」は、ヒトの経口摂取の場合、致死量は1.2mg程度とされている。塩基性または強酸性の環境下で分解されるものの、拮抗薬や特異療法などによる解毒法が見つかっていないほか、300℃以上に熱しても分解されないという安定した毒素であるため、もし体内に入れてしまった場合は、すぐに医療機関に搬送し、適切な処置を施さなければ、最悪、死に至る危険性を有している。

今回の実験で用いられた大気圧プラズマは、半導体製造工程で用いられているほか、有害ガスや有害物質の分解、元素分析など幅広い産業分野で活用されている技術で、その応用発展が期待されている。中でも大気圧非平衝プラズマは室温から100℃程度の低温ながら、プラズマ生成時に高い活性力を持つラジカルなどの活性種が生成され、それが分子の結合を切断することから、例えば細菌やウイルスなどに対して殺傷効果をおよぼすほか、物質の表面を分子レベルでクリーニングできたり、表面の酸化膜を瞬時に還元することが可能であるといった特徴がある。

また、放電損傷を生じず、手で触ることができるプラズマも生成可能なため、生体表面や食品の殺菌への応用も研究されており、今回の研究でも、アルゴン、ヘリウム、酸素、窒素、空気、二酸化炭素などさまざまなガス種で安定に大気圧プラズマを生成することができるマルチガスプラズマ装置を用いて実験が行われた。これは、プラズマ中で発生する活性種の種類や量はプラズマのガス種に依存するためで、さまざまなガスのプラズマをテトロドトキシンに照射し、調査を行ったという。

マルチガスプラズマ装置

テトロドトキシンの濃度については液体クロマトグラフ質量分析装置で測定を行った結果、各ガス種のプラズマ照射後のテトロドトキシンの信号強度は、空気プラズマの照射では信号の減少は確認できなかったものの、窒素と酸素のプラズマの照射で、信号強度の減少が確認できたという。これについて研究グループは、プラズマによって酸化力の高いOHラジカルや一重項酸素が生成され、それらがテトロドトキシンの分解に寄与したものと考えられると説明する。

各ガス種のプラズマ照射によるテトロドトキシンのスペクトル強度

さらに酸素および窒素プラズマの照射時間によるテトロドトキシンの濃度の推移を調査したところ、10分間の窒素プラズマ照射で、テトロドトキシンの濃度が1/100に減少することが確認されたほか、各ガス種のプラズマ照射によってテトロドトキシンの質量数以外の中間生成物も観測されたが、これらの信号も照射時間とともに減少することが確認されたとする。

酸素および窒素プラズマの照射時間におけるテトロドトキシンの濃度

窒素プラズマの各照射時間におけるテトロドトキシンの質量スペクトル

なお研究グループでは今回の成果を踏まえ、ほかの有毒物質の分解も期待できるとするほか、同じプラズマの照射で大腸菌、黄色ブドウ球菌、カビなどの殺菌効果も確認されたとしており、今後は食品や農産物無毒化や細菌・ウイルス汚染の除去、食品容器や医療機器などの殺菌処理、化学テロ対策などへの応用展開などが期待できるようになるとコメントしている。