立命館大学は3月12日、一般的には強度と延性のトレードオフが生じ、結果、靱性(壊れにくさ)も低下してしまう金属材料に対し、高強度と高靱性を両立させることを可能にする新たな創製法「調和組織制御法」を開発したと発表した。

同成果は、同大 理工学部 機械工学科 材料工学研究室の飴山惠 教授らによるもの。詳細は「Materials Transactions」ならびに「Materials Science & Engineering:A」に掲載されたほか、日本金属学会2014年春季大会の「プラストンの材料科学」セッションにて関連内容が発表される予定だという。

金属材料の最大の特長は、曲げたり伸ばしたりといったさまざまな形状に加工できること、ならびに材料の微細構造を制御することで力学的性質などの特性を変えることができることにある。材料を高強度化できれば、部品の小型化や薄肉化につながり軽量化できるため、省資源、省エネルギーとなり、二酸化炭素の排出低減にも貢献できるため、その実現に向け、より均一で微細な結晶粒を持つ微細構造の制御や、精緻な合金設計などの手法が考案されてきた。しかし、その一方で、強度を増せば増すほど延性(伸び)は損なわれることとなり、結果として、強度は高いが、靱性(壊れにくさ、タフネス)は低いというトレードオフの問題が生じることとなり、高強度と高靱性の両立は金属ではできないと考えられてきた。

研究グループは、2007年より高強度と高靱性を両立する金属材料創製法についての研究を進めてきており、今回、その成果の一部として、「調和組織制御法による高強度・高靱性金属材料の開発とその特性発現メカニズムの解明」に成功したという。

「調和組織制御」は金属材料の結晶粒の寸法と配置を人為的に制御する手法であり、同技術を活用することで、延性を損なわずに強度を上昇させることが可能となり、高強度と高靱性を両立できる材料創製法の開発に成功したとする。また、Ti、Al、Ni、Fe(鉄)、Cu(銅)、Co-Cr-Mo合金(コバルト合金)、SUS(ステンレス鋼)などのほぼすべての金属材料(軟質から硬質、低融点から高融点までの材料)に適用可能であることが判明したほか、従来技術である「粉末冶金技術」を基盤としているため、「粉末冶金法」を適用できる製品を対象とでき、幅広い応用が可能だという。

同技術は、ナノテクである「超強加工法」を応用することで、粗大結晶粒の周りに微細結晶粒を形成させ、従来の常識を覆す不均一な結晶構造を持たせつつ、材料の構造の局所的不均一さを巨視的に制御することで変形をより均一に起こすことで、高強度と高靱性を両立させる手法であり、こうした調和組織が得られる手法であれば、粉末冶金技術によらないバルク材料のプロセスにも適用可能だという。

実際に研究グループでは、工業用純Ti粉末を高速ガス流によるジェットミル加工したところ、短時間・低コストで調和組織制御でき、その結果、力学特性を大きく向上することができたことを確認したとする。

研究グループでは、「調和組織制御法」により製造される材料は、特に、医療分野(ステントやインプラント、微小医療器具など)、航空・宇宙・衛星分野(微小筐体・基板、微小締結部材など)のような高い信頼性が要求される分野での応用が期待されるとしており、例えば高い生体適合性を示すが、力学的特性から小型化に限界があった純Tiを同手法で作製した場合、従来手法比で、引張強さは1.5倍、靱性は2.2倍にそれぞれ向上できることが確認されたほか、調和組織制御により疲労特性も向上することも確認されたとする。

また、実際の金属材料の創製プロセスは、「原料粉末の表面超強加工」、「成形・焼結」、「仕上げ」という手順だけであり、従来の粉末冶金法との違いは、最初の表面超強加工プロセスのみだという。

左が創製プロセスの概要。従来の粉末冶金法が適用でき、ステントやインプラント材料など、小型部品への応用が容易。右が調和組織制御により作製した純Ti製ボルト・ナットとその顕微鏡写真。微細結晶粒のネットワーク構造が粗大結晶粒を包み込んでいる様子がわかる。粉末表面にナノオーダーの微細結晶粒組織を形成し、その後、成形・焼結を行うことで、数百nm~数μmオーダーの微細結晶粒をネットワーク状に配置し、同時に、数μm~数十μmの粗大結晶粒をそのネットワークの中に配置した構造を持った材料を創製。微細結晶粒材料は高強度であり、粗大結晶粒材料は高延性であるため、こうした構造では、微細結晶粒部分が高強度を発揮しつつ、粗大結晶粒部分が延性を保つことで、全体として高強度と高靱性を発現させる。この考え方は従来の材料の微細構造をできるだけ均一かつ微細にする、という考え方とはまったく異なるものであるほか、従来の性質の異なる材料を組み合わせる、という複合材料とも異なり、同一素材でできている、という点も特徴の1つとなっており、ミクロでは不均一ながら、マクロではより均一な変形につながる、というユニークなメカニズムとなっている

研究グループがこれまでに試した材料は、「Co-Cr-Mo合金(Co-28Cr-6Mo合金)」や純Ti以外に、純Al、純Ni、純Fe、純Cu、Ti-6Al-4V合金、SUS304L、SUS316L、SUS430、SUS329J1で、いずれの材料においても高強度と高靱性が確認されたとのことで、立体的なネットワーク構造により高強度と高靱性を同時に発現させる、という力学特性は、その構造由来のものであることから普遍的なものであるとの考えを示しており、材料にこのような構造を持たせることでどのような金属材料であっても高強度と高靱性が発現すると考えられるとしているほか、これまでの研究から調和組織の形成過程にはおよそ3通りのタイプがあることも明らかになっているとのことで、これらの詳細については、日本金属学会2014年春季大会にて発表予定だという。

各種材料の調和組織材料と従来(均一)組織材料の強度と靱性の比較

なお研究グループでは、「調和組織制御」は材料学におけるパラダイムシフトとなりえることを示唆しており、今後の材料設計の新しい指針となると考えられるとコメントしている。