岡山大学は2月20日、中国・天津医科大学、米・国立がん研究所などとの共同研究により、マウスiPS細胞の作り出す微小環境ががん細胞の「上皮間葉移行(Epithelial-Mesenchymal Transition:EMT)」を促して、がん細胞の造腫瘍能や遊走能、浸潤能を亢進すること、つまりがん細胞の悪性度や転移能を促進する可能性があることを明らかにしたと発表した。

成果は、岡山大大学院 自然科学研究科 ナノバイオシステム分子設計学研究室の妹尾昌治教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、1月15日付けで米がん研究科学雑誌「 American Journal of Cancer Research」電子版に掲載された。

これまでの研究から、がん細胞が作り出す微小環境が「がん幹細胞」を作り出すこと、さらにがん幹細胞から分化したがん細胞が、がん幹細胞を維持する環境を作り出すことがわかってきている。そして今回の成果により、正常な幹細胞が作り出す微小環境はがん細胞の性状を変化させる可能性があることが明らかとなった次第だ。iPS細胞が作る環境は周囲のがん細胞の性状を変える能力があることが明らかとなったのである。

これらのことから、がん組織ではがん細胞、がん幹細胞および正常幹細胞が作り出すそれぞれの微小環境がそれぞれの細胞へ相互に影響する可能性が示され、これらががん組織の成長、悪性度および転移能を決定する大きな要因となっていることが示唆されるとした。

肺に転移した「ルイス肺がん(LLC)細胞」。画像1(左)は通常の条件で培養したLLC細胞。画像2は、マウスiPS細胞が作る微小環境で培養したLLC細胞の「LLC-miPS CM細胞」。黄色点線で囲まれた部分はがんの転移巣。LLC-miPS CM細胞をマウスに移植すると多数の転移巣が観察された