京都大学(京大)は、次世代の有機機能性材料としての応用が期待されている「ベンゼン環」をリング状につなげた構造を持つ炭素リング分子「シクロパラフェニレン(CPP)」の1種で、理論的に興味深い性質を示す可能性が予想されていたものの、その合成が困難で、これまで実現されていなかったベンゼン環を5個つなぎ合わせた[5]CPPの化学合成に世界で初めて成功したと発表した。

同成果は同大化学研究所の山子茂教授らによるもの。詳細は米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン速報版に掲載された。

CPPは、有機ELや有機半導体などの材料に活用されている、アームチェア型のカーボンナノチューブ(CNT)やフラーレン(C60)の最小構成単位であり、次世代の有機(光)電子材料として期待されており、近年、複数の研究グループからその化学合成が報告されていた。 ベンゼン環を5つつなぎ合わせた[5]CPPは、C60と同じ直径(約0.7nm)かつ同等のバンドギャップを有していることが予測されていたが、その形状は歪んでいるため、合成はこれまで達成されていなかった。

(a)は「シクロパラフェニレン(CPP)」の構造、(b)はアームチェアカーボンナノチューブの構造、(c)はフラーレンC60の構造。アームチェアカーボンナノチューブおよびC60内の紫色はCPPの部位を示している

そうした中、研究グループではこれまでの研究から、ベンゼン単位と白金錯体との組織化に基づいたナノ炭素リング分子の効率的化学合成法の開発に成功しており、今回の研究では、同手法と米国の研究グループが報告している合成法を融合させた新たな合成手法を考案。

ベンゼン環に変換できる部位「シクロヘキサジエンジオール」と分子末端に反応点を持つ分子を、ベンゼン環同士の結合反応として優れているカップリング反応を用いて、末端のベンゼン環同士をつなげることで、[5]CPPの前駆体を合成。その後、前駆体のシクロヘキサジエン部位を塩化スズを用いた芳香族化反応によってベンゼン環に変換することで、[5]CPPの合成を実現したという。

[5]CPPの合成手順の概要

実際に得られた[5]CPPは、空気中でも安定であると共に、種々の有機溶媒によく溶けるといった取り扱いの容易性があることが確認されたほか、バンドギャップを紫外可視吸光スペクトル、電気化学的測定、および理論計算より評価したところ、[5]CPPがフラーレンC60に匹敵する狭いバンドギャップを有していることが判明し、有機EL、有機半導体、有機太陽電池などの有機エレクトロニクス材料の鍵分子になる可能性が示されたという。

なお研究グループでは、今後、[5]CPPを出発原料とした「誘導体化」の研究が進むことで、電子物性などが精密に制御できるようになれば、電荷移動材料などの有機名のエレクトロニクス材料の開発研究へつながっていくことが期待されるとコメントしている。