東北大学は2月4日、2000年代後半から世界各国で検出が報告され、世界的流行を起こしている急性呼吸器感染症の原因ウイルス「エンテロウイルス68型(EV68)」の抗原性および受容体結合性を明らかにしたと発表した。

同成果は、同大医学系研究科の押谷仁 教授(微生物学分野)、同 岡本道子 助教(微生物学分野)、中部大学・生命健康科学部・生命医科学科の鈴木康夫 教授、山形大学医学部・感染症学講座の松嵜葉子 准教授、山形県衛生研究所・微生物部の水田克巳 副所長、香川大学・研究推進機構・総合生命科学研究センター・糖鎖機能解析研究部門の中北愼一 准教授らによるもの。詳細は2014年2月6日(米国時間)付けで「Journal of Virology」オンライン版に掲載される予定だという。

EV68は1962年に急性呼吸器感染症の原因ウイルスとして初めて分離され、2000年代後半から世界的に流行するようになったウイルスだが、その流行の原因となったウイルスの変化などのウイルス学的要因は不明のままであった。

そこで研究グループは今回、EV68の流行および重症化に影響する可能性のある受容体結合性および抗原性に着目して解析を行ったという。具体的には、受容体結合性の解析にグリカンアレー法を、抗原性解析には、近年流行したEV68ウイルス株に対する抗血清作成ならびに作成抗血清を使用した赤血球凝集阻止試験(HI試験)と中和試験(NT試験)を実施したという。

この結果、受容体解析から、ウイルス株の検出年に関わらず、解析に使用したすべてのEV68が下気道に分布するα2-3結合型シアル酸糖鎖よりも上気道に分布するα2-6結合型シアル酸糖鎖に高い結合性を有していることが判明したほか、抗原性解析の結果、近年検出されたEV68分離株では1962年に検出された初代分離株と大きく異なる抗原性を持っており、かつ、近年流行したウイルス株間でも抗原性に多様性があることが確認されたとのことで、これによりEV68がヒト上気道に親和性を持つ可能性が示されたとしており、今後、EV68による流行発生機序および乾癬病態の解明につながることが期待されるとしている。

EV68のシアル酸結合性。異なる5段階の量(1mg/ml、0.3mg/ml、0.1mg/ml、0.03mg/ml、0.01mg/ml)で調整した2つの異なる糖鎖(α2-6結合型およびα2-3結合型シアル酸糖鎖)へのEV68の結合性をグリカンアレー法により測定した結果。すべてのウイルス株がα2-6結合型シアル酸糖鎖に対してより強い結合性を示していることが確認された

Fermon株および近年検出されたEV68の抗原性。赤血球凝集阻止試験(HI試験)および中和試験(NT試験)の結果。1962年に分離されたFermon株は、近年流行株で作成されたいずれの抗血清に対しても交叉反応性が低く、Fermon株の赤血球凝集阻止価(HI価)および中和抗体価(NT価)は、むしろ陰性対象として使用したEV68以外のウイルス(HI試験ではインフルエンザAパンデミック09株、NT試験ではエンテロウイルス71型)に近い値を示していることが確認された。この結果からFermon株と近年検出されたEV68の間には大きな抗原性の隔たりがあることが判明した

なお、研究グループでは、研究で用いた分離株を検出したフィリピン・レイテ島の「Eastern Visayas Regional Medical Center(東ビサヤ地域医療センター:EVRMC)」やその周辺医療機関と2008年から継続して研究を行ってきたが、2013年11月8日の台風30号(現地名:Yolanda)によって、一帯が壊滅的被害を受け、EVRMCに研究グループが整備した研究施設も大破してしまっており、現在、研究体制の再構築を進めているとしているほか、東日本大震災の経験も生かし、被災地の感染症コントロールを含む保健衛生全般の復興協力を進めていくとしている。

近年検出されたEV68の抗原性。赤血球凝集阻止試験の結果(エラーバーは95%信頼区間、アスタリスクは有意水準5%での統計学的有意差)。近年流行株間では遺伝子学的3系統:Lineage1,2,3の間で有意に赤血球凝集阻止価(HI価)の分布に違いがあり、近年流行株が抗原性の異なる複数のウイルスタイプで構成されていることが判明した