東京海洋大学と農業生物資源研究所は1月23日、正常の生理状態で、液体窒素下(-196℃)で24時間凍結しても、32カ月の間-90℃で冷凍保存しても生存でき、-100℃の凍結と解凍の反復に10回以上耐えることが出来るヒルが地球上に存在していることを確認したと発表した。

同成果は同大(ならびに京都大学)の鈴木大氏(現在は九州大学 学術研究院)、宮本智子氏、渡邊学 准教授、鈴木徹 教授と農業生物資源研究所の黄川田隆洋氏らによるもの。詳細は米国オンライン科学誌「PLOS ONE」電子版に掲載された。

地球上の生物はそれぞれに適した温度帯で生息するため、その条件下から外れると正常な生命活動を行えなくなり、最終的には死に至る。一般的な生物では、0℃以下の低温になると生命活動の維持が難しくなり、かつ細胞内外の水分凍結という液相から固相への物理的状態変化および溶質の濃縮といった化学的状態変化が生じるため、細胞や生物自身が凍結障害の影響を受けることとなる。

今回、研究グループは、研究目的で半年間-80℃の環境で冷凍保管していた爬虫類のカメの1種である「クサガメ」を解凍したところ、カメの生前時より寄生していたと思われる淡水性で、爬虫類のカメ類に特異的に寄生する「ヌマエラビル」が能動的に体を動かすことを確認。改めてヒルのみを凍結および解凍したところ、同様に生存が確認されたことから、詳細な調査を行ったという。

具体的には、ヌマエラビルと他の5種類のヒル類(ヌマエラビルと同属近縁種でウミガメに寄生するマルゴエラビルやカメ類には寄生しない淡水性ヒル類)を用いて、それらを-90℃のディープフリーザーに保存し、24時間後に解凍して生存率を調べたという。その結果、ヌマエラビルのみが生存し、他種はすべて死亡が確認された。さらに、ヌマエラビルの孵化直後の個体ならびに卵にも同様の実験を行った結果、孵化幼体も生存し、解凍した卵からも孵化が確認されたという。

また、ヌマエラビルの成体を液体窒素(-196℃)に24間浸漬しても、すべての個体が生きていることが確認され、その結果、実験に用いたヒル類の中ではヌマエラビルのみが耐凍性を持つことが判明したという。

加えて、孵化直後の何も食べていない幼体についても生存が確認されたことから、ヌマエラビルの耐凍性は生まれつき備わった能力であることが推測されたとする。

これらの結果を受けて、さらに-90℃温度条件下における長期保存に対する耐性を調べた所、9カ月までは100% の生存が確認され、その後さらに保存期間が伸びるにつれて徐々に生存率の低下が見られたものの、最大で32カ月の保存に耐えることが観察されたという。

このほか、凍結と解凍の反復に対する耐性調査では、-100℃の凍結との反復を最大12回まで耐えることができることも確認されたという。

ちなみに、長期の低温保管に耐えることや、低温下におけるガラス化や凍結保護物質(トレハロースなどの糖類)の蓄積が確認されなかったとのことで、今回の試験で用いられたヌマエラビルの水分は完全に凍結したと考えられるという。クマムシやネムリユスリカなどの極低温条件に対して無代謝状態「クリプトビオシス」となる生物が存在するが、同状態になるためには乾燥や凍結保護物質の蓄積が必要で、相応の時間がかかり、かつ生命活動を行う通常の生理状態での低温耐性はクリプトビオシス状態に比べ極端に低下することが知られている。しかし、今回のヌマエラビルの高い耐凍性は、通常の生理状態で発揮されているものであることから、研究グループでは、今後、ヌマエラビルを含めた多種多様な生物種における耐凍性メカニズムの機構解明に向けた研究が進むことで、生物学や医学への応用が期待できるとしており、この高い耐凍性が何に由来しているのかを明らかにすることを目指した遺伝子レベルでの研究を進めていく方針としている。

今回の研究から高い耐凍性が判明したヌマエラビル(出所:PLOS ONE)