医薬基盤研究所(NIBIO)は1月6日、次世代質量分析計を用いた血中超微量アルツハイマー病診断マーカーAPL1β定量法を確立したと発表した。

同成果は、NIBIOプロテオームリサーチプロジェクトの朝長毅プロジェクトリーダーと佐野聖三 研究員および大阪大学大学院医学系研究科 精神医学講座の大河内正康講師らによるもの。詳細は米科学誌「Journal of Proteome Research」電子版に掲載された。

アルツハイマー病は老化に関連して起こる代表的な神経変性疾患で、現在の日本人の平均寿命では、アルツハイマー病などの認知症を発症する割合は20%程度とされているが、実際はその過半数の人の脳内でアルツハイマー型の病理過程が相当に進んでいると考えられている。また、現在の寿命が5歳延びると認知症を発症する人の割合は50%程度に増加すると推定されており、認知症の発症を予測し、早期に予防的措置をとることが求められている。

アルツハイマー病は脳内に「アミロイドβ42(Aβ42)」ペプチドが蓄積することが引き金になり発症すると考えられており、蓄積はアミロイドPETで見ることができるが、その蓄積に先立つ産生量の増加を測定する方法はこれまで存在しなかった。

これまでの研究から、髄液中のAβ42量がアルツハイマー病の診断マーカーとして有用である可能性があるとされていたが、早期診断には限界があることも分かってきていた。

研究グループはこれまでの研究から、Aβ42と同じ仕組みで脳内で産生されるAPL1β28を発見し、その髄液中の量がアルツハイマー病の診断に有用であることを見出していた。APL1β28の増減は脳内Aβ42の増減を正確に反映しており、アルツハイマー病脳内での病理過程の進行を正確に測定することができるが、髄液検査は非常に侵襲性が高く、簡便にできる検査ではないため、非侵襲的かつ簡便に測定できる血液検査法の開発が求められていた。また、血液中のAPL1β28は非常に微量であるため、従来の髄液検査で用いられてきたELISA法で検出することはできなかった。

そこで今回、研究グループは、次世代質量分析計を用いた血液中に超微量に存在するAPL1β28の測定を実施。検出・定量に成功したという。

今回の成果について研究グループは、アルツハイマー病のような長期間にわたって潜行性に進行し、しかも発症率が特別に高い疾患では、血液を用いた検査で病気がどれほど発症に近づいているか調べることが出来れば早期診断・早期治療につながることから、今後増え続けるであろうアルツハイマー病の発症を予測し、早期に予防するための有効な手段になることが期待されるとコメントしている。