島津製作所は1月6日、走査型プローブ顕微鏡(SPM)のフラッグシップモデルとして、HR-SPM(High Resolution Scanning Probe Microscope)カテゴリに位置づけられる、周波数変調方式(FM方式)を採用した高分解能走査型プローブ顕微鏡「SPM-8000FM」を発表した。

一般に、SPMは微小な板であるカンチレバーを細かく振動させながら試料表面に近づけ、カンチレバー先端に一体成形された探針が受ける相互作用力(原子間力)を検出することで、試料の表面観察を行う。同検出法には、振幅変調方式(AM方式)と、よりノイズを低減できる周波数変調方式(FM方式)があり、FM方式を採用したSPMはHR-SPMに分類され、AM方式に比べて感度と安定性が高く分解能が良い点が特徴となっている。しかし、FM方式には、大気中や液中では環境の粘性抵抗や吸着水の影響などによって検出感度が大きく低下するという問題があったため、これまで主に真空中での観察に利用されていた。しかし、最先端のナノテクノロジー分野では、真空中だけでなく、実働状態に近い環境において原子レベルで構造観察と物性計測を行い、試料の特性を精密にとらえたいという強いニーズがある。そこで、このニーズに対応するため、京都大学などと共同で同製品の研究開発を進めてきた。

同製品では、カンチレバー振動を検出する光集光系の効率化やレーザ光の非干渉化などの技術を開発することで、カンチレバーの変位を検出する光てこ検出系のノイズを従来比1/20に大幅低減することに成功した。これにより、従来のSPMでは困難だった大気中・液中での超高分解能観察を実現した。例えば、大気中における鉛フタロシアニン結晶薄膜の分子配列構造や、水中における塩化ナトリウム(NaCl)の原子構造といった、従来法では観察することのできなかった顕微像を鮮明に捉えることができる。また、溶液中で特定の反応を示す有機分子の機能性評価や反応評価を行うことができるため、有機デバイスの開発にも有用であるという。

一方で、固液界面は溶質と水(溶媒)の相互作用により複雑な層状に構造化することが知られており、水和・溶媒和と呼ばれている。水和・溶媒和は固液界面における化学反応や電荷移動、潤滑、熱伝導などに大きな影響を与えていることが知られているが、非常に薄い層のため計測は容易ではなく、とりわけ面に対し水平方向に不均一で3次元の構造を持つ水和・溶媒和はこれまで観察ができなかった。「SPM-8000FM」では、超高感度な力検出感度により、局所的な水和・溶媒和構造の計測を実現。固液界面で探針に働く力を探針位置の関数として精密計測することによって、界面での液体構造を観察できる。さらに、新たな走査方式を採用することにより、2次元だけでなく3次元構造解析も可能となった。この他、電極、ポリマーや界面活性剤、生体界面の液中での挙動を観察するなど、表面観察だけでなく、固液界面の構造計測装置としても応用できると説明している。

なお、価格は5000万円(税別)。すでに販売を開始している。

島津製作所の高分解能走査型プローブ顕微鏡「SPM-8000FM」