昨年末、低用量ピルの副作用である静脈血栓症による死亡例があったとする報道に対し、日本産科婦人科学会が見解を発表した。

近年、女性ホルモンの一種である低用量ピルおよびその類似薬剤は、避妊目的だけではなく、月経困難症や子宮内膜症に対する有効な治療薬として使用頻度が日本においても増加している。女性ホルモン剤服用中の女性を対象とした静脈血栓症発症の実態は厚生労働省研究班で調査中とのことだが、同会では事態の緊急性を鑑み、次のような見解を発表した。

低用量ピルは避妊に限らず、月経痛や月経過多の改善、月経前症候群の症状改善などの目的で多くの女性に使用されている一方で、有害事象として頻度は低いが静脈血栓症などが挙げられる。

海外の疫学調査によると、低用量ピルを服用していない女性の静脈血栓症発症のリスクは年間1万人あたり1~5人であるのに対し、低用量ピル服用女性では3~9人と報告されているという。また、妊娠中および分娩後12週間の静脈血栓症の発症頻度は、それぞれ年間1万人あたり5~20人および40~65人と報告されており、妊娠中や分娩後に比較すると低用量ピルの頻度はかなり低いことがわかっているとのことだ。さらに、「カナダ産婦人科学会によると、静脈血栓症発症により致死的な結果となるのは100人あたり1人で、低用量ピル使用中の死亡率は10万人あたり1人以下と報告されています」。

低用量ピルの1周期(4週間)あるいはそれ以上の休薬期間をおいて再度内服を開始すると、使用開始後数カ月間は静脈血栓症の高い発症リスクを再びもたらすので、中断しないほうがよいといわれているという。また、喫煙、高年齢、肥満は低用量ピルによる静脈血栓症の発症リスクが高いといわれており、注意が必要ともしている。

「欧米では、静脈血栓症の発症は激しい腹痛、激しい胸痛・息苦しさ・押しつぶされるような痛み、激しい頭痛、見えにくい所がある・視野が狭い・舌のもつれ・失神・けいれん・意識障害、ふくらはぎの痛み・むくみ・握ると痛いといった症状と関連することが報告されていますので、低用量ピル内服中に症状を認める場合には医療機関を受診してください」とコメントしている。

「低用量ピル内服中の静脈血栓症の発症頻度は低いものの、一旦発症すると重篤化するケースもあります。服用中に前述の症候がみられた場合は、ただちに服用を中止し、処方元の医療機関を受診してください。早期の診断、治療により重症化を防ぐことができます」と締めくくっている。