東北大学は12月24日、精神疾患の原因となるゲノム領域の90%以上に存在する特殊な遺伝子を発見したと発表した。

同成果は同大学大学院生命科学研究科生物多様性進化分野の牧野能士助教とイギリスとアイルランドの研究グループらによるもので、12月23日(日本時間)に「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

ヒトの"設計図"である遺伝子を構成するDNA配列の違いは、身体的特徴の違いや性格の違いなどさまざまな個性を生み出すのと同時に、病気の原因にもなり得る。近年、ゲノム領域における「コピー数多型(生物集団内における個体間比較において、ゲノム領域のコピー数の違いのこと。ゲノム領域のコピー数は重複によって増加し消失によって減少する)」の研究が進み、さまざまな領域にコピー数多型があることが分かってきたという。

コピー数多型は基本的には無害と言われているが、複数の研究グループによって統合失調症、自閉症、うつ病といった精神疾患などの原因となるケースも報告されている。しかし疾患の原因となるコピー数多型に含まれる複数の遺伝子には共通した特徴が見出されず、原因となる遺伝子の特定はできていなかったという。

中央横線は本研究で収集された精神疾患の原因となるコピー数多型を含むゲノム領域、四角は遺伝子を示す。コピー数多型領域に1遺伝子しか存在しないNRX1、CNTNAP2、VIPR2、CHRNA7(■)は、精神疾患の原因遺伝子だと考えられる。一方、他のコピー数多型領域では複数の遺伝子が存在するため、原因となる遺伝子を特定するのは困難である

研究チームは以前から「オオノログ」に注目してきた。オオノログは遺伝子数の増減に弱く、21番染色体が一本増加する事によって発症するダウン症候群の原因遺伝子の75%がオオノログであることを発見(Makino and McLysaght PNAS 2010)。そういった経緯もあり、オオノログのコピー数多型が精神疾患の発症と関連があるのではないかと考えたという。 オオノログとは、ゲノムが重複する「全ゲノム重複」が起こったときに、両方のゲノムが残った場合の遺伝子のこと。全ゲノム重複による脊椎動物の進化を提唱された大野乾博士にちなんで名付けられたもの。オオノログは最適な遺伝子数が厳密に決められている遺伝子群に多く、オオノログの重複や消失が有害な影響を与えるためにコピー数多型を持たない傾向があるという。

有害/無害のコピー数多型中に含まれるオオノログの頻度と密度

今回の研究では、これまでに報告されている統合失調症、自閉症、知的障害、てんかん、うつ病、双極性疾患といった神経発達障害の原因となるコピー数多型を文献より収集したほか、健康な人のコピー数多型を大規模に調査した研究により得られた無害と考えられるコピー数多型の情報も収集した。また、無害のコピー数多型と比較して、精神疾患の原因となるコピー数多型の多くにオオノログが含まれるか検証を行ったという。

精神疾患に関る15のコピー数多型領域のうち、90%以上(14領域)にオオノログが含まれていたことが判明。一方、無害のコピー数多型では30%程度しかオオノログが含まれず、精神疾患の原因となるコピー数多型が統計的に有意にオオノログを含むことが示されたという。このことは、オオノログを含むゲノム領域の重複や消失が精神疾患を引き起こすことを示唆しているという。

精神疾患の原因となるコピー数多型領域上のオオノログを青色示す。15の精神疾患に関るコピー数多型領域のうち14という高頻度でオオノログが含まれている。また、コピー数多型領域に1遺伝子しか存在しないNRX1、CNTNAP2、VIPR2、CHRNA7のうち3遺伝子がオオノログ

共同チームは、今回の成果を受けてオオノログおよびその周辺領域のコピー数多型を調査することで、効率的な有害コピー数多型の同定が可能になるとし、精神疾患に限らず様々な病気との関連のあるコピー数多型の理解がさらに深まることを期待できるとしている。