早稲田大学(早大)と東京大学(東大)は12月10日、絵を用いた記憶方略を活用するという方法と、日本語と英語の音の違いを意識化させて聞き比べるという方法を組み合わせることにより、ともにアルファベットの音の学習を促進できることを小学生への実験によって明らかにしたと発表した。

同成果は、早大 理工学術院英語教育センターのEmmanuel Manalo教授、東大教育学研究科の植阪友理 助教、東大教育学研究科博士課程の関谷弘毅氏らによるもの。詳細は記憶認知応用研究学会(SARMAC:Society for Research in Memory and Cognition)の機関誌「Journal of Applied Research in Memory and Cognition(JARMAC)」に掲載された。

英語の読みを獲得することは、母語としない日本の子供などでは困難で、中でも日本語の場合、文字の名前と発音が一致している(例えば、日本語で"ね"という文字は、そのまま"ね"として発音される)が、英語の場合は、文字の名前と発音が一致していない(例えば、英語の"n"は、enと読むが、/n/と発音される)ほか、英語は音素を基本とするのに対し、日本語は、基本的には母音と子音からなるモーラを単位としていることなど差が大きいことが知られている。

今回の研究では、こうした言語構造を意識化することにより、より英語のアルファベット音の獲得が促進されるという仮説が考えられた。また、研究では、絵がついたアルファベット表に代表されるように、絵と文字を結びつけるという工夫は英語学習における代表的な工夫であり、決して新しいものではないが、一般的に使われているような図とその頭文字を記すようなものでは、文字と絵がバラバラに呈示されているため、子供が必ずしも英単語を知っているとは限らないため、文字の形と物のイメージが思い出すための手がかりになっていないほか、図と文字を結びつけるような工夫がされている場合であっても、同様に効果が薄いと考えられたことから、文字の形と日本語の単語を結びつけるような工夫を導入することで実験が行われた。

絵と文字を結びつける場合でも、文字と絵がバラバラに呈示されているほか、文字の形と図を結びつけた工夫がされたものでも、子供がその英単語を知らないため、効果が薄いと考えられた

今回の研究では、日本語として物のイメージしやすくしつつ、文字の音を思い出すことを助ける工夫がなされた(この絵の場合、左が「ブラシ」と文字の音(/b/)の組み合わせ)

具体的には、アルファベットの発音については十分に知識がないものの、アルファベットの名前については知っている状態(文字を見ればわかるが、話言葉からは文字を選べない)の小学6年生140名を対象に、記憶の方略と教示する群としない群、音の比較をする群としない群の4群のいずれかに分けて指導を行った。取り上げた音素は、12の子音で、指導は45分授業2コマで、通常授業の中で行われた。各条件の違いは、同じ音と文字の組み合わせを学習し、記憶の方略を指導されたか否か、もしくは日本語の音との違いを明示的にされたかどうかで、指導の前後に、文字の名前や音が聞き分けられるかの調査が行われた。

調査の結果、全体として、指導をうけたすべての学習者において、アルファベットの音の学習が促進していることが示されたが、記憶の方略の指導を受けた群と、音の明示的な比較を行った群では、それに応じた一層の学習効果が見られたことが示されたほか、統計的にも確認されたという。

実験において得られた群ごとの平均(標準偏差)

なお研究グループでは、この20年にわたり、日本政府は英語の学習効果を上げることを掲げてきたが、日本人の英語スキルは、他国に比べて必ずしも高くない状況が続いており、グローバル化が進む中において、英語力を早急に高める必要性があり、指導法の研究が極めて重要となることから、今回検討したような指導法が、子供が学校において英語を学ぶ際の効果を高めるために重要になってくるものと考えられるとコメントしている。