フラーレン中にある水分子は-250℃でも凍らず電場に反応する - 名市大など

名古屋市立大学(名市大)、京都大学、東北大学、名古屋大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)などで構成される研究グループは12月10日、炭素分子フラーレンに閉じ込められた水分子が、-250℃以下の低温でも凍らずにほぼ自由に回転していることを明らかにし、同分子に外部から電場を加えると、その向きが電場に応答して変化することを確認したと発表した。

同成果は、名市大 システム自然科学研究科の青柳忍 准教授、東北大学の星野哲久 助教、同 芥川智行 教授、名古屋大学の佐道祐貴氏、同 北浦良 准教授、同 篠原久典 教授、JASRIの杉本邦久 研究員、京都大学の張鋭氏、同 村田靖次郎 教授らによるもの。詳細は英国王立化学協会が出版する「Chemical Communications」に掲載される予定。

水分子(H2O)は水素原子(H)と酸素原子(O)から構成されているが、水素原子から酸素原子に電子が偏っているために大きな電気的極性を持つことが知られている。

水分子H2Oの模式図。水素原子(白)から酸素原子(赤)の方に電子-qが偏っている。この電気的な極性により、水分子は静電気に反応する

この電気的な極性により、水分子は静電気(電界、静電場)に対してその向きを変化させたり、引き寄せられたりする。そのため、この特性を電子機器などに利用することも考えられてきたが、常温では液体であるため、そのままでは応用が困難であった。また、0℃以下では氷となるが、氷中の水分子は水素結合によって分子の取り得る向きが強く制限されているため、水中の水分子のように静電気に対して自由に向きを変えることはできず、その利用は困難であった。こうした中、2011年、京都大学の村田教授らが、「分子手術」と呼ばれる手法を用いて、水分子1個を球状の炭素分子フラーレンC60の内部に閉じ込めることに成功。フラーレンは室温で固体であり、かつフラーレン中の水分子は水素結合を形成しないと考えられたことから、氷中の水分子に比べて自由に向きを変えることができる可能性があるとされていた。

氷の結晶構造(0℃以下)。水素結合により、水素原子が隣の水分子の酸素原子の方を向いている。この水素結合により水分子のとり得る向きは強く制限されている

そこで研究グループは今回、その結晶構造の解明に向け、水分子を内包したフラーレンH2O@C60の結晶を作製し、大型放射光施設SPring-8によるX線回折実験を実施したほか、電気的な特性の解明に向け誘電率の測定を実施した。

結晶構造解析の結果、H2O@C60は球状の分子が規則正しく最密充填した結晶構造を形成することが判明したほか、各C60分子に内包された水分子は、-250℃以下の低温でもほぼ自由に回転運動していることが判明したという。

水分子内包フラーレンH2O@C60の結晶構造(-250℃)。緑の線で描かれたかごは、フラーレンC60分子。フラーレン内の水分子は水素結合を形成せず、低温でも高速に回転運動している

一方、誘電率測定の結果、H2O@C60の結晶の誘電率は、水分子を内包していないC60の結晶に比べて大きく、また低温になるにつれて増大することが判明し、これによりH2O@C60の結晶では内包された水分子が、外部から加えられた電場に応答して分子の向きを高速に変化させることが示された。

水分子内包フラーレンH2O@C60の結晶(赤線)と、フラーレンC60の結晶(青線)の誘電率の温度変化。各物質の室温での誘電率ε1の変化量Δε1を絶対温度Tに対してプロットしたもの。H2O@C60の誘電率は低温になるにつれて増大することが分かる

今回の成果を受けて研究グループでは、水分子内包フラーレンH2O@C60の構造的、電気的特性は、同分子が単分子スイッチや高誘電率材料として応用できる可能性を示すものだと説明。フラーレン内の水分子の向きを制御、認識することで、超高密度な情報記録が実現される可能性があり、かつ地球上に膨大に存在する水と炭素のみで構成されているため、クリーンな新材料として期待がきるとするが、各種の特性を応用していくためには、水分子の向きを自在に制御することが必要不可欠となるため、今後は、水分子の向きが一方向に整列した結晶を作製することを目指して研究を進めていく予定だとしている。



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