東京大学は、単層カーボンナノチューブ(CNT)の垂直配向膜の膜平面方向の弾性係数が、CNT束の引き裂きと絡みつきが決め手になることが分かったと発表した。

同成果は、同大大学院 工学系研究科 機械工学専攻 教授の丸山茂夫らによるもの。スタンフォード大学のケン・グッドソン教授、中国中山大学の項榮准教授と共同で行われた。詳細は、「Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America」に掲載された。

ファンデルワールス力による単層CNTの引き裂きと絡み合いが単層CNT膜の弾性係数を決定することが明らかになった。自動車の廃熱利用などにおける信頼性の高い接合部の設計に用いることが期待される

自動車の排気などの比較的低温の廃熱を利用した発電は、新規のエネルギー有効利用技術として期待されている。これに利用する最近の熱電変換素子の変換効率の向上は目覚ましいが、半導体である熱電変換素子と高温・低温電極との接合部には温度変化による機械的ストレスが加わり、その劣化が装置設計の大きな問題となっている。このため、接合部には機械的に柔軟で高い熱伝導率を有する材料が望まれるが、一般に高い熱伝導率の材料は、ダイヤモンドなどの結晶や金属などで、機械的な柔軟性を持ち合わせていない。そこで、長軸方向にダイヤモンドを超える熱伝導率が期待される単層CNTの垂直配向膜の活用が期待されている。

現実には、垂直配向膜の微細構造は非常に複雑であり、従来は理論的な解析やシミュレーションによる解析が困難であった。研究グループは、マイクロ加工技術で作成したシリコンのカンチレバー上に直接かつ均一に単層CNTを合成して、その共振特性を計測する精緻な実験で膜平面方向の弾性係数を求めた。カンチレバー共振器のマイクロ加工はスタフォード大学で行い、このカンチレバー表面に東京大学において単層CNTの垂直配向膜を化学気相合成法(CVD)により合成し、電子顕微鏡解析やラマン分光解析を行った。その後、再びスタンフォード大学において、共振特性を解析した。

単層CNTの垂直配向膜の膜平面方向弾性係数のカンチレバー共振による測定。CNT膜の膜厚が厚くなると弾性係数が減少する

これにより、弾性係数の膜厚依存性およびCNTの微細構造の詳細な電子顕微鏡観察から膜の上部に存在するランダムな構造部分とそれ以外の高配向性の部分とで異なる力学特性を有していることを明らかにした。さらに、CNTのトラス構造を想定した理論解析と粗視化分子動力学法によるシミュレーションによって、それぞれの部分での弾性係数の決定要因を明らかにした。

8つのトラスで表現したセルモデルの概念図と解析結果

CNT膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像と粗視化分子動力学法による解析

ランダム構造部分は、CNTの曲げが弾性係数を決める主因であり、それ以外の高配向部分では、ファンデルワールス力によるCNT束の引き裂きと絡み合いが主な決定因子となっていることが明らかとなった。さらに、この粗視化分子動力学法による解析によって、複雑な構造を有するCNT膜の電気伝導および熱伝導に関する解析が一気に進むことが期待されている。

CNT膜にひずみを加えた場合にCNT束が引き裂かれる様子

多層CNTを用いた接合材料はすでに実用化に向けた研究が進んでいるが、より柔軟で高い熱伝導特性が期待される単層CNTの熱接合部への利用が期待される。さらに、単層CNT膜の微細構造と弾性係数、熱伝導率および導電率を結びつける解析技術は、透明かつ柔軟な薄膜トランジスタ、太陽電池や柔軟な透明導電膜などの単層CNT応用デバイスの設計指針を与えることが期待されるとコメントしている。