産業技術総合研究所(産総研)は12月9日、14nm世代以降のFinFETに適用できる低抵抗ソース・ドレイン形成技術を開発したと発表した。

同成果は、同所 ナノエレクトロニクス研究部門 シリコンナノデバイスグループの水林亘主任研究員、昌原明植研究グループ長らによるもので、日新イオン機器と共同で行われた。詳細は、12月9~11日に米国ワシントンD.C.で開催される「International Electron Device Meeting(IEDM)」にて発表される。

室温イオン注入と高温イオン注入の模式図と熱処理後の極薄シリコン層の結晶状態。図中のBOXは二酸化シリコン(SiO2)、As+はヒ素イオン、BF2+は二フッ化ホウ素イオン

2017年以降に市場投入が想定される14nm世代以降のトランジスタ技術では、極薄Fin部分のソース・ドレイン抵抗の増大が課題となっている。抵抗の増大はトランジスタの性能低下の要因となるため、低抵抗のソース・ドレインを形成する技術が強く求められている。ソース・ドレインの抵抗が大きいと、トランジスタの動作時に電圧降下が顕著となり、性能の指標となるドレイン電流が減少してしまう。一般的なソース・ドレインの形成方法として、不純物をイオン注入して、その後の熱処理により、注入した不純物を活性化させる方法がある。しかし、この方法は、極薄Fin部分のソース・ドレインの抵抗が増大してしまうという課題がある。

FinFETとソース・ドレインの抵抗の模式図

従来の室温イオン注入の場合、イオン注入後Fin部分全体が非晶質層となる。結晶層がほとんどないため、その後の活性化熱処理の際にも、欠陥の多い結晶か多結晶となってしまい、抵抗の増大を引き起こす。室温イオン注入に対し、イオン注入後も、結晶層を維持できる方法として高温イオン注入がある。高温イオン注入は、Fin部分の結晶層が維持できる反面、室温イオン注入に比べ欠陥が多く生成する。このため、従来の平面型トランジスタでは、用いられてこなかった。しかし、FinFETは、Finの膜厚が薄く、高温イオン注入で生成された欠陥が熱処理によりFinから抜けてなくなり、無欠陥の結晶へと回復できるため、抵抗が低減するため、高温イオン注入により、無欠陥で低抵抗のソース・ドレイン形成することが期待できると考えられいた。

従来の室温イオン注入と今回開発した高温イオン注入によるFinFETのソース・ドレイン形成の模式図

今回、FinFETのソース・ドレインの作製と同じ条件で極薄シリコン層に室温イオン注入と高温イオン注入を行い、シリコン層の結晶状態に及ぼす影響を調べた。まず、室温イオン注入の場合、厚さ21nmのシリコン層にイオン注入すると、厚さ11nmの非晶質層が生成された。次に、厚さ11nmのシリコン層が全て非晶質の試料を作製して、それを熱処理した。この場合、シリコン層に結晶の回復に必要な種となる結晶部分がないため、結晶を回復できず、多結晶や双晶などが形成される。これは、ソース・ドレインの抵抗増大を引き起こす。

室温イオン注入の場合の活性化熱処理前後のシリコン層の結晶状態

次に、高温イオン注入を注入温度500℃で行った。イオン注入後も、シリコン層全体で結晶層が維持されていた。これらが結晶の回復に必要な種となるので、11nmと極薄のシリコン層でも、熱処理によって結晶を回復でき、無欠陥の結晶層となった。これは、ソース・ドレインの抵抗の低減につながる。

高温イオン注入の場合の活性化熱処理前後のシリコン層の結晶状態

さらに、高温イオン注入がFinFETの信頼性に及ぼす影響について評価した。信頼性は、ゲートに一定電圧をかけた時のしきい値電圧の経時変化から評価した。高温イオン注入によるFinFETのしきい値電圧の変化は、室温イオン注入によるFinFETの変化よりも小さく、信頼性が向上したことが判明し、高温イオン注入により高信頼性FinFETが作製できることが分かった。これらの結果は、高温イオン注入が、14nm世代以降のFinFETのFin部分のソース・ドレイン形成技術として有望な技術であることを示している。

室温イオン注入と高温イオン注入によるFinFETのしきい値電圧の経時変化

今後は、高温イオン注入を量産FinFET製造プロセスへの適用に向け、FinFET製造プロセスの最適化、量産用装置の開発を行うとコメントしている。