おでこから常在菌を採取し、“美肌菌”だけを増殖させて保存する

人間の身体の中には「常在菌」がおり、その数は約100兆個とも言われている。皮膚の上には、アトピーを起こす黄色ブドウ菌やニキビの原因となるアクネス菌などがいる一方、肌のキメ細かさや潤いを守る“美肌菌”の表皮ブドウ球菌などもいる。そうした“美肌菌”をより効率的に増殖させる方法として、12月5日より世界初の「美肌菌バンク」が一般に発売された。

悪玉菌を攻撃し、有効物質を生成

東京女子医科大学 東医療センター皮膚科の出来尾格(できおいたる)講師

美肌菌と言われている表皮ブドウ球菌は、肌にどのような影響を与えるのか。東京女子医科大学 東医療センター皮膚科の出来尾格(できおいたる)講師によると、表皮ブドウ球菌は角質という比較的皮膚の表面に近い層に生息しており、肌荒れを起こす病原菌などの進入をくいとめる働きがあるという。

また、黄色ブドウ球菌などの悪玉菌と同じ栄養(汗、皮脂など)を摂取するため、悪玉菌の栄養を奪うことで悪玉菌の繁殖を妨げることができる。更に表皮ブドウ球菌は、潤いなど肌に有効な物質を生成することも確認されている。

表皮ブドウ球菌は誰もが持っている菌であり、年齢によって増減しないものの、性質や数は人によって異なるため、他人の菌を移植することはできない。そこで、安全にかつ効率的に表皮ブドウ球菌を増殖させる方法として、世界で初めて「美肌菌バンク」が開発された。

既に発売されている化粧品の中には、表皮ブドウ球菌を増殖させる化合物を配合しているものがあるが、「美肌菌バンク」は自分の肌から採取した表皮ブドウ球菌を培養して増殖し、その表皮ブドウ球菌を肌に戻すというものになっている。

4週間で10~20倍の美肌菌が定着

「美肌菌バンク」の手順は、まず、理化学研究所で開発された「美肌菌採取法(Dekio法)」にて、おでこを滅菌綿棒で軽くなでながら、表皮ブドウ球菌を含む様々な常在菌を採取する。その常在菌の中から表皮ブドウ球菌を選別して培養。その後、試験を経て表皮ブドウ球菌と判定された菌だけをまた培養し、-80度で凍結保管する。肌に使用する前に、凍結乾燥機にてパウダー状態にし、使用する時は専用のローションと一緒に肌に塗布する。

凍結保管された菌は半永久的に保管が可能。塗布するタイミングは就寝前で、週2回(9本/月)の6カ月分を1セットとして販売している。

定着美肌菌の変化。プラセボ群は4週間後に表皮ブドウ球菌戻しを実施して検証

保湿(水分量)の改善。被験者自身も保湿改善を実感できたと回答している

実際に表皮ブドウ球菌を肌に戻すと、どのような効果が期待できるのか。長崎国際大学の野嶽(のだけ)勇一講師と榊原隆三講師は、長崎国際大学の女性教職員・女子学生21名(年齢22~57歳)を対象に、表皮ブドウ球菌戻し群13名とプラセボ群8名で、臨床試験を週2回を4週間を実施した。

すると、表皮ブドウ球菌戻し群では定着表皮ブドウ球菌が10~20倍程度検出された一方、塗布を中断してからは、4週間で塗布前の検出量と同等までに減少していることが分かった。肌への影響では、油分量の増大で蒸散量が抑制されることでの保湿改善とともに、バリア機能の向上によるキメの改善が見られた。また、ベタツキやテカリに対する否定的な所見はなく、炎症・シミなどの副作用も試験では見られなかったという。

「美肌菌バンク」プロジェクトには、出来尾講師や野嶽講師、榊原講師、また、乳酸菌などの常在菌の研究・製造を行っているバイオジェノミクスが携わっており、販売はウェルネス・ジャパンが担う。美肌菌採取は15万円、美肌菌戻しキット(美肌フローラ)6カ月分は35万円、美肌菌凍結保存(美肌菌管理)1年間は5万2,500円、育菌化粧品 エルフィーヌ3点セット(化粧品、美容液、乳液)は2万9,400円であり、6カ月の使用で総額58万1,900円となる(価格は全て税別)。