スパイバーと小島プレス工業は11月28日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業支援を受けて、クモの糸の主成分であるフィブロインをベースとするバイオ素材「QMONOS」の量産技術の確立に向けて、試作研究設備を稼働させたと発表した。

クモの糸は、世界で最もタフな繊維であるのに加え、原料を石油に依存しない環境負荷の極めて少ない次世代素材として注目されており、工業化が期待されている。しかし、人工的なクモの糸を用いた工業部材や製品を試作する技術は確立されていない。クモの糸を人工的に作り出すためには、多くの技術革新が必要となる。

研究チームでは、約350種類もの遺伝子を合成し、菌株の改変、培養条件の最適化を図ることで、研究開始時から比べて約3000倍の生産効率を達成した。また、環境負荷や人体への毒性が高く、高価なフッ素系溶媒を用いることなく、工業分野において実績のある他の溶媒を用いてクモ糸の成分のタンパク質を溶解し、安定的に紡糸する技術を開発した。さらに、量産化可能な基本製造プロセスを確立している。

竣工・稼働する試作研究設備「PROTOTYPING STUDIO」は、これまでの研究において実証したクモの糸の人工的な量産に関わる基本製造プロセスを、実際の設備において実証することを目的としている。クモ糸をはじめとするフィブロインなどの構造タンパク質の分子設計から、微生物を用いたタンパク質の原料生産、繊維化・樹脂複合化、部品や製品の試作評価、そして評価結果の分子設計へのフィードバックまでを、1つの拠点で一貫したプロセスとして開発できるように設計されており、多分野にわたる横断的な研究開発・事業推進体制をパイロットスケールで体現している。

今回、大規模な培養・精製設備、月産100kgの生産能力を持つ紡糸設備、複合材料を試作するためのプリプレグマシン、各材料の基礎評価設備などの中核的な試作設備の稼働を開始させる。今後、製品開発の幅を大きく広げるため、試作用編み機、試作用織り機、プリプレグ加工成形機などを順次追加導入し、「QMONOS」のさらなる実用化、量産化に向けた研究開発を行っていくという。

「QMONOS」の量産に向け、両社は次世代バイオ素材の包括的共同事業化契約を締結し、2014年度中にジョイントベンチャーを設立する。以降は、「QMONOS」の事業化に向けた全機能を同ジョイントベンチャーが担うことになる。さらに、「PROTOTYPING STUDIO」内に年産10t規模の生産能力を持つ「QMONOS」パイロットラインを2015年中に増設・稼働させ、国内のみならず世界に向けた「QMONOS」の供給を目指すとコメントしている。

試作研究設備の外観

「QMONOS」の試作工程