東北大学と日本電子、島津製作所、日本原子力研究開発機構(JAEA)は、分光素子として電子顕微鏡に最適な不等間隔溝回折格子を開発し、Liの分析も可能な高分解能軟X線分光器を開発したと発表した。

同成果は、東北大 多元物質科学研究所の寺内正己教授らによるもの。詳細は、2014年2月26日~28日に東京ビッグサイトにて開催される「国際二次電池展」で、日本電子が軟X線分光器を製品化し展示する予定。不等間隔溝回折格子については、島津製作所が供給する。

研究グループでは、汎用透過電子顕微鏡(TEM)に搭載できる高いエネルギー分解能を持った軟X線分光器を開発し、金属AlのAl-Lスペクトル観察において、0.2eVの高いエネルギー分解能での観測に成功した。この成果を受けて、エネルギー範囲がより低い領域およびより高い領域においても分光可能で、また、TEMのみならず電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)や走査電子顕微鏡(SEM)にも搭載可能な、高エネルギー分解能軟X線分光器用の分光素子として、収差も補正した不等間隔溝回折格子を開発した。さらに、この開発した回折格子を分光素子とした、商用の高エネルギー分解能軟X線分光器を搭載したEPMAおよびSEMを用いて、この分光器の利用範囲の拡大、特に工業的利用を目的としたアプリケーション開発を進めている。

開発した分光器は、分光素子として不等間隔溝回折格子を採用しているため検出系に可動部分がなくなり、この素子のカバーする全分光領域のスペクトルを一度に計測できるだけでなく、選定した走査領域の各点のスペクトルをスペクトルマップとして収集できるという大きな特徴を持っている。この分光器のエネルギー分解能は、EPMAに用いられている通常の波長分散型分光器(WDS)よりも1桁以上良好で、商用機としてもAl金属のAl-Lスペクトルにおいてフェルミ端で0.3eVを保証している。

(左)分光器の外観写真、(右)軟X線分光器の構成と特徴。複数の特性X線スペクトルを同時測定可能

軟X線分光器のパフォーマンス。ルミニウムのフェルミ端部を明瞭に観察。エネルギー分解能0.3eVを実現

また、この分光器は50eVからの分光が可能で、通常使用されているWDSおよびエネルギー分散型分光器(EDS)では不可能なLi-K発光(54eV)の計測が可能。この特徴を利用すれば、Liイオン電池負極のLiの充放電に伴う挙動などを追跡することができ、Liイオン電池の開発・評価などに寄与することが期待されるとしている。

金属LiおよびLiFのLi-K発光スペクトル(54eV)をダイレクト観察

Liイオン2次電池負極のLi-K発光の観察。充電量の差を識別可能

高いエネルギー分解能を持つため、この分光器で取得した特性X線のスペクトルは元素の化学結合状態を反映した形状を示す。このスペクトル形状の違いを利用すれば、化学結合状態の異なる同一元素の分布をマップとして表示する化学状態マッピングができる。さらに、この分光器P/B比はWDSおよびEDSよりも良いので、鉄鋼中の数十ppmの微量のホウ素や窒素などの検出、定量も可能となっている。

Si-L発光スペクトル。Si化合物ごとのスペクトルの違いを明瞭に観察

Al-L発光スペクトルを用いた化学状態分析マッピング。1eVの違いを可視化し、化学状態マップが得られた

研究グループは、これまでLi-K、Be-K、B-K、C-K、N-K、O-K、F-K、Mg-L、Al-L、Si-LおよびP-L発光スペクトルについて、多くの観察例を収集してきた。今後、様々な金属、無機および高分子材料、電子材料、電子デバイス、電池などの分野での応用が進展し、これまでのEDSあるいはWDSでは得られなかったような有用な知見に基づく物質、材料の特性に関する基礎的理解に寄与するばかりでなく、特に化学結合状態がEPMA利用のルーチンで分析できる特性が実用的な材料の開発、評価、検査などへの応用に利用されることが期待されるとコメントしている。