名古屋大学(名大)は11月14日、岡山大学と共同研究で、新しい鉄系超電導体を開発したと発表した。

同成果は、名大 工学部工学研究科の片山尚幸助教、大成誠一郎助教、澤博教授、岡山大学大学院 自然科学研究科の工藤一貴准教授、野原実教授らによるもの。詳細は、「Journal of the Physical Society of Japan(JPSJ)」に掲載された。

2008年に東京工業大学のグループによって発見された鉄系超電導体は、1986年に発見された銅酸化物高温超電導体と同様に、派生する多くの物質群が存在する革新的な超電導物質として、その超電導発現機構の解明や超電導臨界温度(Tc)の向上に向けた研究が世界中で進行している。鉄系超電導体の最高Tcは55K(摂氏-218℃)で、1111系と呼ばれる構造において得られている。しかし、この1111系の構造はレアアースを元素比を25%含むことから、線材化の際のコスト高・環境負荷の大きさが懸念されており、よりレアアース含有量の少ない新しい高温超電導材料の開発が求められていた。

鉄系超電導体は超電導を担う鉄ヒ素層と、鉄ヒ素層を繋ぐスペーサ層のサンドイッチ構造で構成された結晶構造を持つ。従来の探索で発見されてきた高温鉄系超電導体はスペーサ層に多くのレアアースが使用されていたが、研究グループは、レアアースの代わりに化学結合したヒ素の鎖を利用した新しい鉄系超電導体112系を生み出すことに成功した。大型放射光施設SPring-8で実験を行い、ヒ素の鎖が結晶中でジグザグな形状をしていることを電子分布レベルで解明した。

図1 新しい鉄系超電導体の結晶構造(鉄ヒ素層とスペーサ層のサンドイッチ構造)。(右)新しいスペーサ層であるヒ素のジグザグ鎖の俯瞰図。ヒ素間の化学結合による電子分布の偏りがカラーマップで示されている

レアアースの代わりにヒ素の鎖を用いることによって、レアアース含有量を2.5~5%程度に低減することに成功した。もともと超電導層に必要な元素であるヒ素を使って、極めて単純な鎖状態を実現したことと関連して、1111系よりも構成元素数は減少しており、実用化における材料加工の難易度が下がるという相乗効果も期待できる。さらに、112系の大半は34Kで超伝導化するが、試料の一部には45K(摂氏-228℃)という高い温度で超電導化の兆候を示すものがあり、安価で高性能な超電導線材の実現の可能性が示されたとコメントしている。

112系超電導体の電気抵抗。超電導転移を示す抵抗率の減少が45Kから始まっている